09.大学と知り合いと女友達
「おーす生坂(いくさか)」
今日は朝から講義に出席するために大学の構内を歩いていると、後ろから声をかけられる。
こいつは佐藤。
アルコールと飲み会を心から愛する変人である。
見た目は人当たりの良い普通の男だが、肩に下げたバッグには度数37%以上のアルコールが常に入っているという。
そんなヤバい奴だが、大学では同じ講義を取っている割合が多く、よく話す男の知り合いの一人だ。
「今日麻雀しようぜ」
なんて唐突に言い出すのもいつものこと。
割合的には飲み会行こうぜの方が圧倒的に多いけど。
どっちにしろ麻雀やっても酒飲み始めるしな佐藤は。
「面子は?」
「それはこれからよ」
「だと思ったわ」
「どうせ探せばすぐ見つかるだろ」
それは確かに。
大学には暇を持て余した暇すぎる暇人が山のように居るし、佐藤は飲み会が趣味なので友人知人が多い。
そして男子大学生に麻雀が嫌いな奴はいない。(諸説あります)
ということで教室に向けて並んで歩いていると、すぐに次の候補者が見つかる。
「第一村人発見」
「村人じゃないがな」
なんてくだらないやり取りに目的の人間がこちらに気付く。
「佐藤と生坂じゃん、どうした?」
俺と佐藤の共通の知り合いで、またまた同じ講義を取っている鈴木だ。
身長180センチ越えの長身で、男なのにロン毛を後ろで縛っているヤバい見た目の奴なのだが、穏やかな性格で男女ともに人望がある。
そんな鈴木に身長170ちょいの佐藤がむりくり肩を組みにいく。
「よっ、鈴木。今日暇か?」
そんなこんな佐藤にわざわざ腰を落としてやる鈴木の気遣いが染みる。
「得に用事はないけど、どうしたんだ?」
「よし、一人ゲット」
せめて説明はしてやれ。
鈴木が不思議そうな顔してんじゃん。
「佐藤がな、麻雀やる面子を探してるんだと」
「生坂もだろ」
「俺はまだやるとは言ってないがな」
まあやらないとも言ってないが。
「俺は今日なら大丈夫だけど」
と鈴木の参加が決定。
あと一人か。
そして席が四つ中の三つ埋まったことで、自然と残りの候補は絞られる。
わざわざ初対面の人間ピックアップするよりは、共通の友人知人の方が気兼ねなく打てるからな。
まあ佐藤は必要なら普通に俺たちの知らない人間も呼ぶけど、麻雀ならそれでも問題がないといえば問題ない。
ルール知ってるなら雑談しながら打ってるうちに自然と打ち解けるし。
「んじゃ、最後の一人は」
と既に候補を決めている佐藤が、教室の中を覗く。
「あれ」
「高橋居ないな」
目当ての相手の高橋は、この後の講義を取っているはずなのだが姿がない。
まあまだ来てないって可能性もあるけど。
「ザボリか?」
「大いにありうる、聞いてみるか」
俺がLINEを開いて、『講義は?』と打つと直ぐに既読がつく。
『今デート中』
『ならザボリか』
『そうなる、なんかあったか?』
『今日大学終わったら麻雀やるかって話になってるんだが』
『あー、行く行く』
デートはいいんかい。
とツッコミたくなったが高橋ならいいんだろうな。
あいつはそういう奴だ。
「高橋なんだって?」
「講義はサボるけど麻雀は来るって」
あと『代返頼んだ』と言われたが華麗にスルー。
「じゃあ決まりだな」
席が四つ埋まったのでミッションコンプリート。
「場所はどうする?」
第一意見、佐藤。
「じゃあ生坂んちで」
「なんでそうなる」
「ここから一番近いじゃん」
まあ面子のマンションの立地的には客観的にうちに集まるのが一番だけど、そうはいかない理由がある。
「そういえば、生坂んち行ったこと無いな」
と鈴木も言うが、そりゃ招く訳にはいかないからな。
カラーボックスの一角の中身とか、ふたつ並んでる歯ブラシとか、見られたら面倒なのは間違いなく面倒なことになる。
その上本人がいるところを目撃でもされようなら明日の朝刊の一面決定だ。
いや、朝刊の一面は冗談だけど。
それでも回避するべき事態なのは間違いない。
「うちはちょっとなー。佐藤んちは?」
「うちは壁薄いからなー」
「そうだったな」
麻雀は案外音がするので、出来れば防音が効いてる部屋の方が望ましい。
まあ気をつければ音を抑えることも出来なくはないけど、若干めんどいよな。
ちなみにうちは鉄筋で壁も薄いのでそういう意味でも最適な候補になり、頑張って誤魔化さないといけない。
「じゃあ鈴木んち?」
「うちはいいけど、狭いぞ?」
確かに鈴木のマンションは若干狭いのだが。
「どうせ麻雀するだけなら問題ないだろ」
麻雀するだけならコタツ一つを囲めるだけのスペースが有れば問題ない。
記憶にある鈴木の部屋の間取りだと、四人雑魚寝するとかには若干困るかもしれないが。
ちなみに牌とマットはいつも通り佐藤が車の中に積んできているので、持ち運びに制約もない。
じゃあ鈴木んちで、と結論が出て高橋への連絡も完了する。
「あーそうなると講義面倒だなー」
「それな」
三人で並んで席に座ると佐藤がこぼすので同意する。
と言ってもここまで来てサボる選択肢はない。
どうせ高橋いないから今すぐ帰っても始められないしな。
「そいや高橋が」
と言いかけたところで、横から声をかけられる。
「伊織」
俺を伊織と呼ぶ女子は大学の中では一人だけ。
名前は言わずもがなだろう。
「どうした」
「週末までのレポート見せて」
「まだやってなかったんか」
まあレポートなんて期日の前日に本気だすのも沢山いるし、俺もたまにやるので小言を言ったりはしないが。
むしろ当日の講義が終わってから時間ギリギリにでっち上げる(そしてたまに間に合わない)なんてことにならないだけ優秀まである。
「あとで返すわねっ」
「他の奴に見せてもいいけど、丸写しはさせるなよ」
そも俺のレポートを見るだけなら部屋でいいので、おそらく葵の女友達と一緒にやるんだろう。
「わかってるー」
去っていく葵の背中を見ながら、隣の佐藤が聞いてくる。
「前から思ってたけど、お前ら付き合ってんの?」
「なんでそうなる」
「俺も気になる」
「鈴木、お前もか」
他人の恋愛事情を知りたがるのは万人共通らしい。
少なくとも俺の周囲では。
「だって生坂が阿智以外の女子と話してるとこ見たことないしな」
阿智というのは葵の名字。
「それは俺が女子の知り合いが少ないからだろ、って何言わせんだ!」
「自爆しただけだろうが」
まあそうなんだけど。
「葵をそういう目で見たことは一度もないぞ」
「阿智人気なのにな」
というのは大学での男どもの中での話。
だからこそ、葵が部屋に遊びに来る関係なことは秘密にしているのだが。
まあさっきの通り、お互い完全に無関係を装っているわけでもないんだけど。
それはそれで面倒だし。
「そうか、じゃあ生坂は私刑にかけられずに済んだな」
「おい、佐藤。どういう理屈だ」
「彼女持ちを隠してる奴は私刑、なにかおかしいところはあるか?」
「それなら高橋をまず吊るし上げろよ」
「アイツは別に隠してないしな。それにイケメンだし」
「イケメン無罪がこんなところにまで……」
まあこの場合はイケメンだから許される、じゃなくてイケメンだから嫉妬する気も起きないだが。
「それはそうと遠回りに俺の顔がディスられてるよなぁ!?」
「事実だろ?」
「はい……」
いや、別に自分の顔の不出来さを嘆いたりする気はないんですけどね、イケメンかと言われたら間違いなくノーなのは自分が一番自覚しているんですよね。
「まあ生坂もそんなに落ち込まないで」
と鈴木は優しいが、俺の凹んだ心は癒やされない。
しかし、朝刊の一面はあながち冗談じゃなかったな。
そのまま講義が始まる前に、ここより前の席で固まってる葵とその女友達が楽しそうに話しているのが遠目に見えた。
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次回に続きまーす。
ノリで書いてたら長くなったせいでこのパートだと葵が全然空気になってたのは許してください。
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