全裸騎士の正体を探れ
「はっ、はだ……っ!? そ、それは、その、上着を脱いでいるとか、そういうこと、だよな……?」
「いや、マッパよ、マッパ。それで顔だけ隠してるんだから、もう見た目は完全に変態そのものだっつーの」
「おおおぉぉぉ……!?」
自身の【神籬機】に宿る英雄の衝撃的なビジュアルを解説するクロウの言葉に、サクラが妙な呻きを上げながら顔を真っ赤にする。
どうやら彼女は結構な箱入り娘で、そういったことには免疫がないようだな……とクロウが考える中、冷静に話を聞いていたツバキがふんふんと頷いてから口を開く。
「全裸の英雄、実に興味深い話ね。あなたの【神籬機】もそうだけど、英雄やその歴史について研究する者としては、あなたが召喚した人物がどんな英雄なのかが気になるわ。できるだけ詳しく、その人について教えてくれないかしら?」
「詳しくって、言われてもなあ……素っ裸で、結構鍛えられてて、顔はプレートヘルムですっぽり覆ってるから見えなくって、しかもまともに話もできない、謎の踊りを踊ってるってくらいの情報しかないんだよな……」
「な、なんか、聞けば聞くほど混沌としてる方のようなんですけど、その人って本当に人々から崇められる英雄なんですか……?」
「ぶっちゃけ、俺も疑ってる。原始人って言われた方が納得できるような気もするし」
若干引き気味のハスミの言葉に同意しつつ、複雑な表情を浮かべるクロウ。
やっぱりこうして情報を列挙するとかなり怪しい人物としか思えないよなと思う彼であったが、逆に今の話を聞いたツバキは更にこの謎の英雄についての興味を深めたようだ。
「面白い、実に面白いわ! 兜で顔を隠してるってところなんか、特に興味深いじゃない!」
「そ、そんなに興奮することなのか?」
「ええ! 兜を装着しているということは、少なくとも鎧を纏って戦う文化が出来上がった以降の時代に活躍した英雄なのは間違いないわ。問題はなぜ、顔だけを隠しているのか? なんでそんな中途半端なことをしているのかという部分よ」
「ふむ……確かに言われてみればそうだな。裸になりたいのならば兜なんて身に着ける必要はない。どうして顔だけを隠しているのか? そこは気になる部分ではある」
「考えられる可能性としては、顔を隠すことで己の正体を隠している、っていうのが挙げられるわ。そう考えると、クロウくんの【神籬機】の表示されている性能と実際の性能の差もある程度は納得できるわ」
「ん? ど、どういう意味なんだ?」
少しずつ自分の理解を超えた話をしていく女性陣たちにクロウが困惑した様子で質問を投げかければ、やや興奮気味のツバキが早口で解説を行ってくれた。
「クロウくんも妙だとは思わなかった? スピード、パワー、その他の性能が最低ランクだと格付けされた自分の【神籬機】が、リチャード一世の力を発揮したガッシュに勝利したり、素手の一撃で魔獣を撃退できているってことを。前者は【勇機士】の技量差が出ているのかもしれないけれど、後者に関しては完全に性能がおかしいわよね?」
「……そうなのか?」
「私の石動のような重装型の【神籬機】ならばまだしも、お前の機体は馬力自慢の【神籬機】というわけでもないだろう。それが大型魔獣を一撃で粉砕するというのは、正直にいって信じられない話だ」
あまり【神籬機】について詳しくないクロウは、どの機体でもあの程度のことはできると思っていたのだが……どうやらそうではないようだ。
やや機動性に性能を割り振ったバランス型の機体である近接型の【神籬機】が、武器も使わずに大型魔獣であるゴーレムをいとも容易く倒すというのは、にわかには信じられない話らしい。
しかも、それがカタログスペック上は他の【神籬機】よりも弱いとされているクロウの機体がやってのけたというのだから、聞いた者や見た者が驚くのも当然なのだろう。
この矛盾に際して、様々な考えを巡らせたツバキは、一つの結論をクロウたちへと告げる。
「ここから導き出される答えは一つ、クロウくんの【神籬機】は最低ランクの性能なんかじゃあない。むしろその逆……かなりの高性能を有しているということ。そして、それを何らかの方法で秘匿しているということよ」
「えっ!? ま、マジっすか!?」
「マジよ。そういうことができる英雄も多く存在している。ただ、それにしては……っていう部分もあるんだけどね」
ツバキが出した結論に大いに驚くクロウ。
とりあえず、自分の【神籬機】が思っていた以上の強さを誇る機体であったことを喜ぶ彼であったが、ツバキの言うように疑問も残っている。
「そういう自分のステータスを隠すことができる英雄って、忍者とかスパイみたいなことをやってた人って相場が決まってますよね? その場合、【神籬機】も
「そもそもどうして自分の性能を隠す? その、なんだ……殿方として最も大事な部分を曝け出しておきながら自身の強さを隠すというのは、どうにも矛盾しているというか、おかしいというか……」
「仮にクロウくんが召喚した英雄が騎士だとして、どうして固有武装となる剣が出現しないのかしら? 武器を使うよりも拳で戦った方が強い騎士なんて聞いたこともないし、本当にその英雄は騎士なの?」
ざっと挙げられるだけでもまだこれだけの疑問が残っており、その答えはまるでわかっていない状況だ。
一歩前進したように思えるが、歩けば歩くほどに新しい問題が出現するこの疑問にクロウが若干辟易とした表情を浮かべる中、英雄の正体を探り続けていたサクラが言う。
「クロウ、やはりここは今一度英雄さまと会話をしてみるべきではないだろうか?」
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