わかったようで、わからない

 まさか、そんなことがあるのか? と自分で出した結論をいまいち信じられずにいたクロウであったが、再度襲い掛かってきたゴーレムを拳で迎撃し、そいつもまた撃破したことでもうそれを信じざるを得なくなってしまった。


 この【神籬機】、素手で戦った方が強い。

 少なくとも、訓練用の直剣を使わずに拳で敵を殴った方が攻撃力が強いことは間違いないようだ。


 思い返してみれば、アーロンとの試合の決まり手も、拳での殴打だったな……と振り返ったクロウは、機体の両拳を握り締めるとサクラの石動を襲おうとしているゴーレムへとおどりかかった。

 軽い跳躍を加え、やや上方向から敵の頭を打ち砕くように拳を振るえば、そのゴーレムもまたあっさりと粉々に砕け散ってしまう。


「なっ!? く、クロウ!? お前今、何をしたんだ?」


「わかんねえ! でも、こいつが武器を使わない方が強いってことはわかった! 見てろっ!!」


 あっさりと包囲網を形成していたゴーレムたちを全滅させたクロウは、防衛ラインへと迫る魔獣たちに向かって全速力で突進していく。

 魔力を燃やし、推進器ブースターを全開にした彼は、瞬く間にゴーレムたちとの距離を消滅させるや否や、今までそうしてきたようにその横っ面を殴り砕いてやった。


「オラァ!! ぶっ砕けろぉっ!!」


「ゴッ……」


 哀れ不意を打たれたゴーレムは断末魔の悲鳴を上げることもできず、短い呻きを上げて消滅してしまう。

 大して魔力を消費せず、大掛かりな武装も使わず、ひたすらに拳と脚を使っての格闘戦でゴーレムたちを撃破したクロウは、全てが終わった後で荒い呼吸を繰り返しながら呆然と立ち尽くしていた。


「んだよ、これ……? あいつ、騎士のはずだろ? どうして剣を使った時よりも素手の方が強いんだよ……?」


 わけがわからないことばかりだ、クロウは思った。

 訓練用の直剣がなまくらであることは知っていたが、それでも武器であることは変わりないし、騎士である以上は、素手よりも剣を使った戦いの方が得意であるはずだ。


 武器を使わずに戦った方が強いことはわかった。だが、どうしてそうなるのかはわからない。

 そもそもこいつの性能は力も機動力も最低ランクだとゴルドマンは言っていたが、この活躍っぷりから考えると、本当にそうだとは思えなくなっている。


 どうして戦い方がわかったというのに、それ以上の疑問が増えているんだと……正体不明の英雄のせいで苦悩が増え続けていることにうんざりとしたため息を吐くクロウ。

 もう本当に自分はどうしたらいいんだと彼が悩む中、通信越しにサクラと話すゴルドマンの声が聞こえてきた。


「東雲、どうかしたのか? まさかとは思うが、【神籬機】に何かトラブルでもあったのか?」


「あ、いや……」


 どうやら彼も、サクラの石動の異変に気が付いたらしい。

 正確には違和感を覚えた程度なのだろうが、何かがおかしいとは思っているのだろう。


 ゴルドマンからの問いかけに対してもサクラは返答を渋っており、そこに何か理由があると推察したクロウは、大声で二人の会話に割り込むと、こう述べた。


「ああ、すいません! 俺がうっかり誤射して、変なところに当てちまったみたいで……それでちょっと、機体の調子がおかしくなってるんだと思います」


「……!!」


 石動の不調の原因は自分にあると、全くの出まかせを口にするクロウ。

 彼の言葉を耳にしたサクラが驚きに目を見開く中、絶好のいびりネタをゲットしたゴルドマンは、ふんっとわざとらしく鼻を鳴らしてから、ねちねちとクロウを責め始める。


「ほう、なるほどなるほど……! チームメイトを誤射し、あまつさえその【神籬機】に影響を及ぼすような損害を与えるとは、言語道断だな。運よくゴーレムたちは全滅させたようだが、そんな失態を犯した人間は当然ながら評価の対象外だ。この実習におけるお前の成績は落第とする。わかったな、クロウ」


「ごっ、ゴルドマン先生! それは――っ!!」


「は~い、了解で~す。すんませんでした~」


 折角の好成績をふいにしてしまうようなクロウの言動に申し訳なさを感じたサクラが口を挟もうとするも、それを遮るようにして彼はゴルドマンとの会話を打ち切る。

 再び鼻を鳴らしたゴルドマンは一息つくと、実習の終わりを告げると共に指示を出した。


「これにてお前たちの演習は終了だ。【神籬機】から降り、機体をコア・クリスタルに収納して待機していろ。東雲は授業が終わったら機体のチェックをして、異常個所の修復をしておけ、以上だ」


 ぷつん、という音と共に通話が途切れ、ゴルドマンの姿がモニターからも消える。

 クロウが機体から降りるために【神籬機】を操作する中、通信を切っていなかったサクラが小さな声で彼に問いかけてきた。


「……どうして嘘をついた? 私を庇わなければ、評価を落とすこともなかったのに……」


「気にすんなよ。どうせあの教師はなんだかんだ理由をつけて、俺の評価を落とすに決まってんだ。お前を庇おうと庇わなかろうと、結果はそう変わんなかったさ」


「だが、しかし……」


「だから、気にすんなって! っていうかお前の方こそ、どうして正直に機体にトラブルが起きましたって言わなかったんだ? 別に大幅減点されるようなことでもないだろ?」


 あっさりとサクラに答えたクロウは、逆に彼女へと当然の疑問を投げかけた。

 最初に機体に異変が起きた時からそうだが、どうして正直にその不調を報告しなかったのかと、そう尋ねるクロウに対して、暫し悩んだ後でサクラはこう返事をする。


「……後で少し、付き合ってくれ。その時に理由を話す」


「ん、了解。んじゃまあ、そういうことで」


 特にここでは深く追求せず、彼女の意思を尊重したクロウが通信を切る。

 わからないことは自分の【神籬機】に関わることだけじゃあないなと、そう苦笑した彼は今度こそ機体から降りると、同じく石動から降りたサクラと共に次のグループの実習を見守るべく、教室へと戻っていった。


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