重装型【神籬機】・石動

「え~、こほん。【勇機士】の最たる役目は、無辜の民を脅かす魔獣を討滅し、国家の安寧を守ることである。これより諸君には、二人一組のチームで低級魔獣との模擬戦を行ってもらう。仲間と協力して敵を打ち倒すという、【勇機士】としての基本をここで学んでほしい、以上だ」


 入学初日の模擬演習で使用した闘技場とはまた違う、ただ広い草原を模した演習場。

 そこに集った合計六機、チームにして三組の【神籬機】に乗った【勇機士】たちへとゴルドマンが演説めいた授業内容の解説を行う。


 各チームにはそれぞれの持ち場が与えられており、その地点を魔獣が通過しないよう、僚機と協力して迎撃に当たるというのが今回の演習の内容だ。

 第一グループとしてサクラと演習に臨むことになったクロウは、機体の状態を確認しながら同じグループに配属されたクラスメイトたちの【神籬機】をこっそりと観察していく。


 クロウ自身を除く他の五機の【神籬機】の内、四機は昨日の演習で戦ったアーロンの乗機と同じガッシュだ。

 ただ、彼の機体のように金一色の趣味の悪い機体はなく、全機が基本色となる灰色のカラーリングをしている。


 あの金ぴかの機体色はアーロンの心象風景が色濃く出ていたのか、あるいは【神籬機】に憑りついたリチャード一世の影響なのかはわからないが、クラスメイトたちの機体を見る限りは彼ほど目立ちたがり屋でもなければ、豪華な英雄の魂を宿しているわけでもなさそうだ。

 彼らがどういった英雄を召喚したのかはわからないが、何事も普通が一番かもな……と思いつつ、クロウは残る一機の【神籬機】へと視線を向ける。


 白と桜の二色で彩られた優美な機体は、それだけでも目立つ。闇のような黒一色であるクロウの【神籬機】と並べば、尚更の話だろう。

 だが、その機体を目立たせているのはカラーリングではなく、であった。


 縦にも横にも、デカい。それがクロウの正直な感想だ。

 およそ十メートル程度の自機と比べ、その【神籬機】は一回りは大きく、そして分厚い体をしていた。


 腕部、胸部、背部とガッシュとは比べ物にならないくらいの装甲を有しているその機体だが、一番目立つのは脚部だ。

 膝から足にかけて重厚な装甲で覆われているその機体の重々しさに感心していたクロウの耳に、その【神籬機】の乗り手であるサクラの声が響いた。


「お互い、目立ってしまっているな。仕方がないことだが」


「まあな。でもまあ、どっちか片方だけが目立つよりかはバランスが取れてていいだろ」


 確かに、と笑みを浮かべながら同意するサクラと良好なコミュニケーションが取れていることに安堵するクロウ。

 そうした後で改めて彼女の【神籬機】へと視線を向ければ、他の誰でもないサクラ自身がその機体について解説をしてくれた。


「『石動いするぎ』、我が大和で主力となっている重装型アーマータイプの【神籬機】だ。馬力はもちろんのこと、巨体に見合わぬ機動性を持っているんだぞ?」


「へえ、そうなのか。んじゃ、その性能を拝見させてもらうとしますかね」


 全高はおよそ十五メートル、重さに関しては四十トン近くはありそうな石動の勇姿を見つめながら、愉快気にくっくと喉を鳴らすクロウ。

 機動力に性能を振った騎士型と比べ、装甲を分厚くすることによってパワーと防御力を高めた重装型の【神籬機】は、彼の男心をくすぐる魅力を持っていた。


 背中に背負っている見たことのない長柄の武器も珍しさによる興味を引き起こさせるもので、ガッシュとは何もかもが違うその機体について知るべく、クロウはサクラへと質問を投げかける。


「あんま詳しくねえんだけどさ、侍とか将軍って呼ばれてる英雄の力を借りてるのか? 見た目も騎士とかとは全然違うじゃん」


「残念だか、それはお前にも言えないな。【勇機士】が召喚した英雄に関する情報は、そう簡単に口外していいものじゃあないというのは知っているだろう?」


 石動……というより、サクラの【神籬機】に憑依している英雄に関する情報を聞き出そうとしたクロウであったが、その質問は彼女に軽く聞き流されてしまった。

 昨日のアーロンが特別(馬鹿)だっただけで、彼女のような反応が普通なのだろうなと考えたクロウは、同時に自身が召喚した英雄の名前すら知らない自分もまた普通の枠組みから外れている存在かと思いながら自嘲気味な笑みを浮かべる。


 そうこうしている間に演習に参加する各機の準備が整ったようで、ゴルドマンは六機の【神籬機】とその【勇機士】に向け、注意を促すと共に号令を発した。


「では、これより演習場に魔獣を解放する! 各チームは連携しつつ、指定エリアを防衛するように!」


 訓練の開始を意味するその号令を耳にした生徒一同の間に緊張が走り、全員が戦いに向けての心構えを固めていく。

 ややあって、クロウたちから少し離れた位置に魔法陣が出現したかと思えば、そこから無数の岩の魔獣が生み出され始めた。


「ゴーレムか。初訓練の相手としてはうってつけだな」


 死者の怨念や世界の邪気が岩や土塊に宿ることで生み出される魔獣、ゴーレム。

 その性質上、世界のどこででも出現するこの怪物は、大型魔獣たちの中でも代表的な存在として広く認知されていた。


 怨念や邪気が主体となって誕生した魔獣であるゴーレムには、思考能力や感情と呼ばれるものは存在していない。

 内に秘める破壊衝動に従って暴れ回るだけの、実に迷惑な存在だ。


 ただ、動きは緩慢である上に基本的には土や岩で肉体を構成している彼らは、【神籬機】の武装で簡単に撃破できる魔獣としても知られている。

 いうなれば、大型魔獣の中の雑魚、とでも呼ぶべき存在なわけだ。


「オオオオオオオオオ……!!」


「さあ、来なすったぞ!!」


 不気味な呻きを上げながら、召喚の術式によって設定された行動を取り始めたゴーレムたちが、クロウたちが防衛するエリアへと進軍し始める。

 その動きを確認しながら、昨日の決闘でも使用した魔道機関銃を構えたクロウの前で、石動を駆るサクラが動いた。

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