神籬機と勇機士
科学と魔法が共存する異世界。この世界には、魔獣と呼ばれる怪物が存在している。
小さいもので二メートル、大型のものともなればゆうに十メートルを超える魔獣は、世界を漂う怨霊や邪念が実体化した存在であり、人類の脅威となる存在だ。
人を襲い、街を破壊し、文明を滅ぼさんとする魔獣たちの侵攻によって、世界は滅亡の危機に瀕した。
どれだけ肉体が強くとも、どれだけ魔術の知識があろうとも、人知を超えた力を持つ魔獣たちは、人の身で挑むにはあまりにも強大過ぎたのである。
武器が必要だ。巨大かつ強靭な肉体と、驚異的な魔力を持つ魔獣を討ち果たせるだけの力を持つ、強力な武器を作らなければならない。
そう考えた人類は、魔獣にも劣らない大きさの鎧を作った。
正確には鎧ではなく、金属でできた巨大な人間を作ったと表現した方が正しいかもしれない。
優秀な魔術師数人分が数人がかりで魔力を送り込み、それ用いて四肢を動かし、魔獣と戦う巨大兵器は戦いにおいて一定の成果を挙げた。
だが、まだ足りない。魔獣たちに打ち勝つためには、一体で複数の魔獣を打倒できる兵器が必要だ。
そう考えた人類が次に行ったのは、英雄の召喚……異世界で活躍した偉人、武人の魂を呼び寄せ、それを巨大兵器に憑依させるという一風変わったこの戦略は、予想以上の成果をもたらした。
正直にいえば、この世界の人々は運が良かったのだろう。
人々を守るために、弱き者たちの盾となるために、命を燃やし尽くした英雄たちは、魂だけの存在になろうともその信念を貫き通すために異世界の人々に力を貸してくれた。
もしもここで悪逆の英雄や怪物と呼ばれる存在を呼び寄せてしまっていたら、この世界は魔獣ではなく異世界の英雄によって滅ぼされていたかもしれない。
そうならなかったのは単にこの世界の人々が幸運で、そして英雄が英雄たる精神を有していたからだ。
魔獣にも匹敵する大きさの人型兵器と、人々を守るために召喚された英雄の魂。
その二つが融合して生み出された【
原初の神籬機『アダム』とそれを一人で操った魔術師『イヴ』を中心とした戦士たちの活躍によって人類は滅亡の危機を乗り越え、今も文明を築き続けている。
しかし、まだ完全に魔獣の恐怖が去ったわけではない。
むしろ日に日にその脅威は増していくばかりだ。
各国は魔獣に対抗すべく神籬機の研究を続けていき、その技術を進歩させていった。
魔力運用の効率化によって従来の膨大な魔力を必要とする在り方を変え、特定の魔力を持つ者ならば単独で操縦することが可能となる技術を擁立。
更に素体となる鎧に自己修復機能や魔力粒子変換による小型化及び巨大化機能を付与したことや、大破時に搭乗者を安全地帯に転移させる技術の開発によって、神籬機は生み出された頃よりもその性能を格段に向上させている。
国を守る盾であり、国を象徴する神籬機を操る者たちは【
英雄の魂を憑依させずに運用する疑似神籬機も開発されたが、やはり正規の神籬機を操る勇機士たちはそれに相応しい魔力を持つということも相まって、選ばれし者として人々から見られている。
原初の神籬機『アダム』の誕生から千年後……各国の中央に位置する『アイオライト王国』は、勇機士を育成する機関として『アーウィン騎士学校』を設立。
各国はそれぞれ将来有望な若者をアーウィン騎士学校に送り、切磋琢磨させることで優秀な勇機士としての成長を促していった。
そういった関係上、アーウィン騎士学校に通う若者の大半は各国において高い地位を持つ家の子供ということになるのだが……中には例外として平民や地位の低い家柄出身の子供も存在している。
本日入学を果たした青年クロウは、その中でも更に例外……というより、唯一のスラム街出身の孤児であった。
クロウ自身もどうしてこの学校に通うことになったのかはわかっていない。
ある日突然、自分の下に入学許可証と学園生活に必要な道具が一式揃って送られてきて、初めてその事実を知った。
差出人は不明。ただ、同封されていた手紙には王冠を模した紋章が描かれており、そこには綺麗な字でこう記されていた。
『アーウィンに来なさい。あなたが最強の勇機士になれば、世界を変えられる』
この手紙が、クロウにアーウィン騎士学校への入学を決心させた。
多くの人々からの尊敬を集め、各国の王族、政府関係者からも頼りにされる【勇機士】になれさえすれば、スラム街出身などという出自は関係ない。
この世界を変えられるだけの力が手に入るかもしれない……自分の人生を賭けるに値する十分な理由を得たクロウは、こうして高い身分の若者たちに紛れ、【勇機士】育成機関の中でも名門中の名門である、アーウィン騎士学園に入学したのである。
そして、自分の乗機となる【神籬機】の素体と引き合わされ、苦々しく自分を見つめる教師や学友たちの前で英霊の召喚を行い……先程のやり取りを自分が呼び出した英雄と繰り広げた、というわけだ。
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