第57話 告白?


「やっほー!愛莉ちゃん、彼氏さん!」


 潤一と愛莉はまたもや昇降口前の廊下で遥香と遭遇した。


 遥香の表情的に偶然とは思えなかった。おそらく、狙って昇降口の廊下の辺りで待機していたのだろう。


 愛莉は遥香を視認するなり、潤一の背中に逃げるように隠れてしまった。


 ぶるぶると震えながら、潤一の肩を片手で掴んでいた。


「あははっ!びびりすぎだよ愛莉ちゃん。そんなに私が恐いの?」


 遥香は愉快に笑いながら、遠目から愛莉の瞳を覗き込んだ。


 愛莉は遥香と目線が合うなり、即座に視線を下方に逸らした。


「なんですか?なんの用ですか?」


 潤一は目を細め、愛莉を守るように彼女の前に立ち、遥香を視界に捉えた。


「そんな恐い顔しないでよ~」


 遥香は呑気に語尾をゆるく伸ばした。


「正直に話してください。まさか、愛莉を恐がらせるために来たんじゃないですよね?」


 潤一は愛莉と遥香の関係を多少なりとも理解していため、内心、怒りを覚えていた。


 そのため、口調にもわずかに怒りが籠っていた。 


「へぇー。愛莉ちゃん、彼氏さんにしゃべったんだー」


 遥香は不思議と満面の笑みを作った。しかし、凝視すると、彼女の目は全く笑っていなかった。


「じゃあ、話が早いね。単刀直入だけど、あのさ、彼氏さん、私と付き合おうよ。そんなびびりの愛莉ちゃんなんか捨てちゃってさ」


 遥香は心底、愛莉を軽蔑したような言葉を紡いだ。


 彼女の表情からは何か意図がある感じがする。


「は?ふざけてるんですか?俺、愛莉に聞いたんです。あんたが過去に愛莉の大事な、ものを奪ってきたってことをね。また、そうやって、愛莉の大事なものを奪うんですか?」


「そうだよ。愛莉ちゃんの持っている中で価値がありそうなものはすべて欲しくなるの。だから、昔から全部奪ってきた。いや~、奪ったときの快感は今でも忘れられないな~」


 遥香はその過去の出来事を回想しているのか、愛莉を見つめながら口元を歪めた。


「ふざけるな!人の気持ちを何だと思ってるんだー!」


 潤一は存分に怒りを表面化させた。


「そんな女と誰が付き合うか!当然、告白はお断りします」


 潤一は大きな声で拒否の意思表示をした。


「残念だなぁ~。それはしょうがないね。けど、愛莉ちゃんがこれからひどい目に遭っても知らないよ?そこは理解しておいてね?」


「関係ないです。俺が守りますから!」


 潤一は「行こう!」っと後方に振り返ってつぶやき、愛莉の手を引いて、靴を履き替え、昇降口を後にした。


 潤一達と遥香の距離がどんどん拡大していく。


 しかし、遥香は追いかける素振りを一切見せなかった。


 その代わり、澄んだ瞳で彼らを視界に捕まえていた。ターゲットを絞ったかのように。

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