第55話 関係


「はい!できたよ!!」


 潤一はお椀に盛られた雑炊をソファのすぐそばにあるテーブルにおいた。


 愛莉の自宅にはテーブルが2つあり、1つは食事用、もう1つはテレビやDVDレコーダーのリモコンを置くのに使用されていた。


「・・・ありがとう」


 愛莉は布団に包まった状態で、頬を紅潮させ、お礼を口にした。


「うん。当然のことをしただけだから」


 潤一は愛莉を少しでも安心させるために、微笑を意図的に作った。


「いただきます」


 愛莉は両手を合わせて食事前の挨拶を行った。


「どうぞ!」


 潤一は相槌に似たものを打った。


「・・・」


 しかし、愛莉は雑炊を口にせず、用意されたスプーンさえも手に取りもしなかった。


「どうしたの?食欲ないの?」


 潤一は心配になり、愛莉の体調を確認しようと試みた。彼は返答の内容次第では、雑炊を下げようとも考えていた。


「食べさせて」


「は?」


 潤一は予想外の言葉に思わず驚き、空気中に息を漏らしてしまった。


「聞こえなかった。食べさせて」


 愛莉はぷいっと視線を逸らしながら順一におねだりをした。


「えっ、それって」


 潤一は動揺から、愛莉の言葉の意味を正確に理解できなかった。


「もぅ〜!何度も言わせないでよ!潤一君に雑炊を食べさせて欲しいのよ!!」


 愛莉は体調が悪いとは思えないくらい大きな声を上げた。

 

 彼女の声が部屋中に響き渡った。


「わ、わかった」


 潤一は慌てながら、食器棚から取り皿を持ってきた。そして、適量の雑炊を取り皿に盛った。


「私、猫舌だから。ふ、・・ふぅふぅしてよね」


 愛莉は恥ずかしそうに要望を言った。


「う、うん」


 なぜか、潤一も頬を赤くしながら、スプーンで雑炊をすくった。


 潤一は決意を固め、「ふーふー」っと息を吹きかけた。


 彼は1回では猫舌の愛莉には受け入れられないと思い、5回ほど吐息を吹きかけた。


「さ、流石にやりすぎだと思うよ」


 愛莉は潤一があまりにも息を吹きかけ続けるため、制止した。


「りょ、了解」


 潤一は先ほどまでの行動をやめ、卵やにんじん、大根が投入された雑炊を愛莉の口元まで運んだ。


 愛莉は優しくパクッとスプーンを咥えて、雑炊を口に運んだ。


「お、美味しい」


 愛莉は十分に咀嚼して飲み込んだ後、弱々しかったが、今日初めての笑顔を浮かべた。


 どうやら、いささか元気が出たようだ。やはり、彼氏の作ってくれた食べ物は格別なのだろう。


「あの、これって、愛莉が食べ終わるまで俺が食べさせるやつ?」


 潤一は恐る恐る愛莉に尋ねてみた。彼の中ではおおよそ彼女の返答の内容が予想できた。


「うん。そうだね。少し気分が良くなったけど、これから、潤一君には私が完食するまで先ほどと同様に食べさせてもらうから」


 愛莉は布団から出てきた後、次の雑炊を求めるように口を軽くアーンっと開けた。

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