第53話 那須遥香
「いつぶりなのかな。愛莉ちゃんの顔を見るのは。2年ぶりぐらいかな」
愛莉の姉は口元に手を添え、天井を眺めた。おそらく、脳を働かせているのだろう。
彼女の名前は那須遥香(なす はるか)。
愛莉の実姉であり、歳は愛莉よりも1つ上だった。
そのため、遥香は中学3年生である。
「それにしても、愛莉ちゃんが男の子と一緒に入るなんて驚きだよ。昔からすごいモテてたけど、異性と親密になることは無かったもんね」
遥香は興味深そうに愛莉の付近に佇んだ潤一を視界に捉えた。
「っ!?」
愛莉は遥香が潤一に視線を向けた直後、後ろに隠れるように移動し、縋るように彼の肩に手を置いた。
愛莉の手はプルプル小刻みに震えていた。
「へ〜。その態度、もしかしてその子は愛莉ちゃんの彼氏さん?」
遥香は舐めるように潤一を見つめた。
一方、潤一は愛莉の普段お目に掛かれない姿に動揺して何かしらの言葉を発することもできなかった。
「無言は肯定って捉えてもいいよね?」
遥香は愛莉から反応が無かったため、勝手に潤一を彼女の彼氏だと断定した。
「まぁ、いいや。そろそろ私は教室に戻って帰る支度をしようかな。今日転校してきたばかりで疲れているからね。だから、またね!愛莉ちゃん、それと彼氏さん、っもね!」
遥香はひらひらと右手を振りながら、踵を返し、近くの階段を登って行った。
潤一と愛莉は遥香の後ろ姿をただただ窺うように凝視していた。
遥香の姿が完全に消えた瞬間、愛莉はヘタっと床に座り込んでしまった。
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