第51話 告白の返事
「はっ!?」
潤一はいつの間にか彼の世界の自宅の自室にいた。
場所も以前に魔法の呪文を詠唱したところだった。
「帰ってきたんだな・・・」
潤一はそのように口先だけを小さく動かし、即座にベッドの上に存在するスマートフォンの電源をオンにした。
日付は12月9日。
潤一が魔法を使用してから1分ほどしかこの世界の時間は進んでいなかった。
「前と同じか」
潤一はどこか安堵した表情を示すなり、スマートフォンを片手に自室を後にした。
部屋を出るなり、「あっ、おにぃ。どうしたの?何かあったなら相談乗るよ?それか、もしかして体調悪いの?」と心底心配する顔で尋ねられた。
この妹の行動は帰宅後、潤一が彩香に対して取ってしまった素っ気ない態度が原因だと考えられる。
「何もないよ。大丈夫だよ!」
潤一は彩香の胸中を推量して、彼女を精一杯安心させるように、薄い笑顔を浮かべ、頭を撫でてあげた。
「ごめんね。いきなり呼び出して」
潤一が帰還した次の日の学校の放課後。
彼は愛莉を彼と彼女しか身を置いていない教室に呼び出した。
この教室は潤一のクラスの専用の教室だった。
「ううん。大丈夫だよ」
愛莉はおどおどしながらも、潤一を見据えた。
愛莉自身、潤一に呼ばれた理由を明確に理解していないのだろう。
いや、予想はできるが、自身のそれに自信が持てない言う方が正しいだろう。
なぜなら、彼女の予想は2つ存在するが、どちらも的中している可能性があるのだから。
「まずさ、俺は那須さんに告白された日に、実はもう1人の女の子からも告白を受けてたんだ」
「え!?」
愛莉は驚きから目を限界まで見開き、口を半開きでキープした。
「それって」
「うん。那須さんの想像通りだよ。俺は同じ日に瑠奈ちゃんにも告白されたんだ」
潤一は何とも言えない居心地の悪さを覚えながらも、正直に事実を伝えた。
「・・・そうなんだ」
愛莉は不安に支配されたのか、目線を下方に傾け、俯きながら返答した。
「うん。そうなんだ」
2人の間に緊張感の孕んだ間が誕生した。その時間、潤一と愛莉は決して視線が合わなかった。
「でも、申し訳なったけど、瑠奈ちゃんの告白はお断りしたんだ」
潤一が想像よりも遥かに重い沈黙を破った。
「え!?」
愛莉は瞬時に潤一の言葉に反応して、目線を彼に向けた。
「本当に?どうして?」
愛莉はさほど稼働していないであろう、脳内に浮かんだ率直な疑問をありのままに吐き出した。
「それは1つしかないよ。俺が那須さんが好きだからだよ。それ以外に理由は存在しないよ。だから・・・」
「返事が遅くなったけど、俺と付き合ってくれませんか!お願いします!!」
潤一は勇気を振り絞って告白し、頭をきれいに下げた。
・・・。
再び、静寂な沈黙が発生した。
「中森君。頭を上げて」
愛莉はそういった行為を行うように潤一に促した。
潤一は彼女の言葉に従い、頭を上げた。
「・・私は今でも信じられないの。まさか、中森君が川崎さんの告白を断ったとは知らなかったから」
愛莉は優美な薄い赤色の瞳を潤ませながら言葉を紡いだ。
潤一は黙って愛莉の話に耳を傾けた。
「でも、嬉しかった。本当に今は幸せ。だから、だから・・・、わかりました。私もなあなたのことが好きです。これからよろしくお願いします!」
愛莉は目線を下方に集中させながら駆け出し、潤一に勢いよく抱き着いた。
その瞬間、彼の鼻腔が愛莉に付着した匂いによってくすがれた。
※まだ、続きます!!
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