第50話 帰還


「アリス、今までありがとう。そろそろ帰るわ」


 潤一は自身の自宅に身を置くアリスを一心に見つめながら、感謝の言葉を伝えた。


「・・・そうなんですね。潤一君もとうとう決心したのですね」


 アリスは寂しげな表情を浮かべた後、柔和な笑顔を作った。


 彼女なりの配慮があっての行動だろう。


「ああっ。もう大丈夫だ。俺の精神は以前に比べて格段に成長した」


 潤一は天井を見上げながら、2回目の異世界での生活を回想した。


 正直、彼にとって2回目の異世界での生活は1回目とは違う意味で大変だった。


 今回は精神的に追い込んだ。


 潤一は何回も追い込み、限界を超えた。


 その結果、彼はいくつもの苦痛を味わっては、乗り越えた。


「それに、もう俺の心は決まったから。誰と付き合うかをね」


 潤一は真剣な表情を示し、アリスに自身の気持ちを訴えかけた。


「・・・そうなんですね。もう、潤一君は大丈夫そうですね」


 アリスは安堵したような悲しむような顔を作った、瞬時にそれを消した。


「あ~あ。私も潤一君の世界の人間だったら。潤一君を諦めかなかったんですけどねぇ~~」


 アリスは天井を眺めながら、胸中の気持ちを吐露した。


「なんだよそれ。じゃあ、俺がアリスの世界の人間だったらもっとアピールしてたのか?」


 潤一は苦笑いを浮かべながら、疑問を解消する言葉を投げ掛けた。


「もちろんです!」


 アリスは即座に返答するなり、潤一に勢い良く抱きついた。


「私は本気でしたよ。本当に潤一君が好きでしたから!」


 アリスは抱きつきながら、珍しく頬を紅潮させながら、潤一を上目遣いで見つめた。


「な、なんだよ。何か普段とキャラが違うじゃないか」


 潤一はアリスの体温を肌で覚えながら、彼女と視線を合わせることができなかった。


 距離が近い上、アリスが尋常じゃないほど可愛く愛おしかったため、潤一は動揺を隠せず、必死に視線をそっぽに向けた。


「ふふっ。照れちゃってますね〜。どうしたんですかその顔はー。案外チョロいですね〜」


 アリスはつんつんっと人差し指で潤一の頬をつついた。


「や、やめろ。揶揄うなよ」


 潤一は口では不満を漏らしつつも、決して彼女の指を払わなかった。


 彼にとってアリスに揶揄われることは決して嫌ではないと考えられる。


「まぁ、楽しいんですけど、潤一君の要望ならここまでしておきましょうか」


 アリスは潤一から身体を離し、距離を取った。


「では、そろそろ潮時ですね。潤一君。今度こそ、本当にさようならです。もう、こちらの世界には来てはダメですよ!」


 アリスはビシッと注意するように潤一を指差した。


「ははっ。絶対にそうするよ」


 潤一はアリスの言葉の意図を推量し、首肯した。


「では、私が魔法を発動しますね」


 アリスは魔法の呪文を詠唱した。


「ちなみに、やっぱりどこの異世界に行くかは事前にはわからないよな」


 潤一は確認のため、アリスに気になる事柄を聞いてみた。


「いえ、大丈夫ですよ。潤一君の世界に必ずワープしますよ」


 アリスは安心させるような声を発した。


「え!?でも、異世界への移動魔法は移動先を選択できないんじゃ・・」


「確かにそうです。しかし、実は移動先を選択する魔法も実は存在したんです。ただ、その移動魔法は学校では習わないらしいのですが」


「それって、アリスが進んで勉強したのか?」


「はい!興味がありましたので!!」


 アリスは満面の笑みで潤一の疑問を解決した。


 そして、その直後、潤一は異世界にワープしてしまった。


 潤一の姿は跡形も無く消えてしまった。


「・・行ってしまいました」


 アリスは潤一を最後まで見届けた後、哀愁の漂うオーラを放ちながら、独り言をぼそっとつぶやいた。

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