第48話 下校


「どうでしたか?久しぶりのこっちの学校は」


「ああ。楽しかった。久しぶりにヤマトと会って話せたのも良かったな」


 潤一とアリスは並んで歩きながら、帰路に着いていた。


 彼らが通過する道の辺りには、横に長い洋風の住宅や鮮やかな緑の葉っぱが実った木が多数あった。


「潤一君とヤマト君は非常に仲が良かったですもんね」


 アリスは大和撫子を彷彿とさせる非常に落ち着いた口調で上品な微笑みを浮かべた。


「今でも仲良いよ。だから、俺とヤマトの関係性を過去形で表現しないでくれよ」


 潤一は不満から、口を尖らせた。


「それにしても、ここの学校の授業は俺達の世界の学校と比較したらめちゃくちゃハードだな」


 潤一は本日の異世界の学校の授業を回想しながら、げんなりした。


「まぁ、そうですね。私も帰還した時、同じように感じました。潤一君の世界の学校が如何に楽ということを本当に実感しました」


 アリスも潤一と似たような表情を浮かべた。


「本当にな。アリスに同感だよ」


 潤一は盛大に苦笑いを作った。


 本日、潤一は学校で勉学の授業を2時間、スポーツの授業を2時間、武道の授業を2時間の合計6時間の授業を行った。


 勉学の授業では潤一達の世界とは比べ物にならないほど難しく、高校で習う範囲を勉強する。


 スポーツや武道の授業ではひたすら実践で戦う授業が行われた。


 皆がレベルが高く、手も全く抜かないため、スポーツや武道は非常にハードであり、体力の必要な授業になる。


 そのため、何10日ないし何100日ぶりにその授業に参加した潤一は現時点ではヘロヘロだった。


「でも、やりがいはあるな。今日1日で自分が成長した感覚はあるし」


 潤一は自身の成長をより味わうために、服に隠れた胸板に視線を移した。


「ダメですよ!そうやってこの世界に浸ったら。潤一君は自分世界に帰らないとダメですよ!」


 アリスは潤一を指差しながら、軽くたしなめた。


「やっぱり帰らなきゃダメか?」


 潤一は不安そうな表情を浮かべながら、アリスに縋るような瞳を向けた。


「当然です!でないと、那須さんと川崎さんに失礼です。彼女達は勇気を振り絞って潤一君に告白したと思いますよ」


「でも、俺、決められないよ。そんな勇輝俺には無いよ〜」


 潤一はナヨナヨした態度を露わにした。


「もぅ、情けないですね。そんな潤一君はこの世界で心も鍛え直す必要がありますね」


 アリスは呆れながら、再びこの世界で潤一を成長させることを決心したような顔を示した。


「・・ちょっと。アリスさん。どうしたの。その私がやるしかないと決心した表情は」


 潤一は並大抵ではない悪寒を覚えながら、自宅に到着するまでの数分間も歩く羽目になってしまった。

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