第45話 異世界


「あっ。おにぃお帰り!」


「・・・ああ。ただいま」


 潤一は普段の陽気な挨拶とは異なり、今日は彩香に対して素っ気ない態度を示した。


「えっ。どうしたの!?おにぃ。いつもと態度が違いすぎるよ?」


 彩香は潤一の態度が普段と異なることに驚愕し、思わず彼を2度見返してしまった。


 しかし、彩香は潤一に言葉を掛けられなかった。


 なぜなら、潤一から発せられる異様な独特なオーラがそれをさせなかったためだ。


 潤一は彩香に目もくれず、階段を上がり、自室にインした。


 彼は学生鞄を床に適当にプットし、即座に制服から部屋着に着替えた。


「はーー。なんでこうなったんだろう?」


 潤一は過度なストレスからか、佇みながら、包み隠さず、盛大にため息を漏らした。


 そう。潤一は未だに困惑していた。


 彼は本日、女子生徒にいきなり告白された。


 しかも、2人の超絶美少女からだ。


 その2人は岡西中学ではビック3と呼ばれていた内の2人だった。


「ううっ。この置かれた状況からいち早く抜け出したい」


 潤一はどうしよう無い愚痴をこぼし、ベッドに盛大にダイブした。


「勘弁してくれよ」


 潤一は仰向けになりながら、嘆いた。


 実際、彼は愛莉と瑠奈の両者に少なからず好感を抱いていた。


 しかし、それが異性として好きかは本人には全く分からなかった。


 そのため、現在、潤一は追い詰められていた。


 これからどうすればいいのかわからなかった。


 いくら、潤一が異世界で色々経験し人間だとしても、皮肉にも告白は経験してこなかった。


 そのため、恋愛や告白に対する彼の耐性はゼロであり、経験値もゼロであった。


 だから、彼はどういった方法を取り、対処すればいいのか、いかんせん見当もつかなかった。


「・・・この世界から逃げたいな。本当に」


 潤一は自室の天井を眺めながらボソッとつぶやいた。


 すると、先ほどの言葉がトリガーとなったのか。異世界の魔法を発動するために、呪文を詠唱するアリスの姿が潤一の頭にフラッシュバックした。


 身体が自然と動いてしまった。


 潤一は無意識にアリスの口にしていた呪文と異世界の学校で習った呪文をそれぞれ脳内で想起した。


 そして、アリスの真似をするように異世界への移動魔法の呪文を詠唱した。


『こうすれば、現状からエスケイプできる!』


 潤一は胸中でわずかな喜びを感じながら、呪文を口にし終えた。


「ふ〜。これで終了か。後は時間を待つだけか」


 潤一は額に汗を浮かべながらも、独りごちるなり、どかっとベッドに腰を下ろした。


 呪文が終了して数分後。


 潤一は自室のベッドから突如姿を消したのだった。

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