第4章
第43話 急展開
アリスが潤一達の世界を去ってしばらく経過した。
季節は流れ、秋から冬にシフトしていた。
日本のあちこちで冷たく肌に痛い風が吹いていた。
そんな冬の真っ只中である12月のある日の放課後、潤一はいつも通り教室で帰りの支度を終え、クラスを後にした。
アリスがクラスにいないため、潤一は1人で室内の戸に差し掛かった。
あれから。学校ではアリスと担任は行方不明扱いにされた。
岡西中学校は2人を発見するため、警察に捜索願いを出しているが、未だに見つかっていない。
そのため、潤一の担任は新任の若い女性の先生に変わった。
潤一はアリスと非常に仲が良かったため、彼女の所在についてクラスメイト達(主に男子)から尋問のように何度も質問された。
しかし、潤一は「わからない」の一点張りだった。
当然だ。真実など言えるわけがなかった。
アリスが異世界にワープしたなど。そして、彼女が別の異世界から来た人間であることも。
だって、誰もそんな話を信じるわけ無いのだから。
潤一が廊下に足を踏み入れた直後、ある女子生徒に声を掛けられた。
「潤君。ちょっといいかな?」
瑠奈だった。
彼女は以前とは異なり、制服に青色マフラーを身に着けていた。
「大丈夫だけど、どうしたの?」
潤一は身体の向きをわずかに変え、率直な疑問を口から吐き出した。
「・・・うん。ちょっと潤君に用事があるの。だからさ、一緒に屋上に行こうよ。ダメかな?」
瑠奈は普段と異なる様子で身体をもじもじさせ、わずかに頬を紅潮させていた。
「いいよ。行こうか」
潤一は瑠奈の様子に奇妙さを抱きながらも、彼女と共に屋上に足を運んだ。
「いきなりごめんね。帰る予定だったよね」
瑠奈は申し訳なさそうにしながら、潤一から目を逸らし、視線を下方に向けていた。
「いや、いいよ。別に急いでたわけではなかったから」
潤一は屋上の中央辺りで、冷気を感じながら、瑠奈を安心させるために返答した。
数秒間、謎の静寂な間が生じた。
潤一は瑠奈を視界に捉えているのに対し、瑠奈はそうではなかった。
しかし、話を切り出したのは瑠奈だった。
「あのね。・・・今日は私の正直な気持ちを潤君に伝えるために屋上に来てもらったの」
瑠奈は顔を上げ、頬を赤くしながらも真剣な目で潤一を見据えた。
一方、屋上の入り口は固く閉じられていた。そのため、現在、屋上には潤一と瑠奈のみしか存在しない。
「・・・」
数秒の沈黙の後、瑠奈は決意を固めたような表情を作った。
「中森潤一君。好きです!もし良ければ、・・・私と付き合ってくれませんか」
瑠奈は目を瞑り、顔をほんのりと赤くしながら告白した。
彼女の誠意の籠った声色が屋上の一面に行き渡った。
もちろん、潤一の耳にもしっかりと瑠奈の言葉は届いたのだった。
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