第42話 別れ


「どういことなんだアリス。お別れってなんだよ。わかりやすく説明してくれよ!」


 潤一は予期せぬアリスの言葉に戸惑い、思わず声を荒げてしまった。


「言葉のままです。私はこの先生と一緒に潤一君の世界を去ります。そして、私達の世界に帰還します。だから、ここでお別れなんです」


 アリスは真剣な凛とした表情で潤一の要望に丁寧に答えた。


「はぁ!?どうして、アリスがこいつと一緒に俺達の世界から出て行くんだよ。しかも急に!」


 潤一は困惑した顔を浮かべながら、焦った口調で必死にアリスに訴えかけた。


「ごめんなさい。このことは潤一君の世界に来る前に決めていたんです。あなたを私達の世界である異世界に送った人間を見つけ、捕まえたら、その犯人と一緒にこの世界を去ることを」


 アリスはちらっと担任に視線を向けた。


 担任は未だにピクピクと身体を痙攣させていた。


「それに、私達の世界の魔法を利用でき、他人に対して魔法を使用する人間を潤一君の世界に決して存在させておくわけにはいきません。だから、私達の世界にワープさせます」


「でも!!異世界への移動魔法はワープする世界を選択できないはずじゃないか?」


「はい。だから、移動魔法を何度も使用します。そうして、私は先生と共に自身が生まれ育った世界に帰還するつもりです。だから、先生が目覚める前に早く行動しなければいけないんです」


 アリスは目をわずかに細め、潤一に自身の意図を率直に伝えた。


「時間がありません。すぐに魔法を発動します」


 アリスは歩を進めて担任の元に到着するなり、魔法の呪文を詠唱した。


 アリスの世界の人間のみ理解可能な呪文だった。


 その間、潤一はただただアリスの後ろ姿をぼんやりと眺めることしかできなかった。


「後、2分ほどで私達はワープします。魔法の発動は完了しました」


 アリスはほんのりと額や頰に汗を掻いていた。魔法は想像以上に体力を消耗するらしい。


「何か私に伝えたい言葉はありませんか?」


 アリスは両手を腰の辺りで組みながら、潤一に歩み寄ってきた。


「・・・」


 潤一は頭がショートして言葉を返すことができなかった。


 伝えたいことは実際あるのかもしれない。


 しかし、脳が思うように稼働してくれなかった。


「何もないんですか?それは悲しいですね。せっかく私はあるのに」


 そう口にするなり、アリスはいきなり潤一に勢いよく抱きついた。


 男をうっとりさせダメにする女の子の匂いが潤一の鼻腔を遠慮なしに刺激した。


「潤一君。あなたのことが好きです。本当に好きです。あなたを思うと私は胸がときめきます。こんな経験は私の人生で初めてでした」


 アリスは潤一の耳元で囁きながら告白した。


「え!?」


 潤一は目を見開き、驚嘆の声を漏らした。


「驚くのも無理はありませんよね。でも、このタイミングしかなかったんです。私の実らない恋心だけを受け取ってください。そして、さようなら。・・・潤一君。もう会うことはないでしょう」


 アリスは目を潤ませながら、名残惜しそうに潤一からゆっくりと離れた。


「ちょ、ちょっと待って。アリス!」


 潤一は無意識に距離を取るアリスの腕を掴もうとした。


 しかし、残念ながらその行動は成功しなかった。


「潤一君、本当にありがとうございました」


 アリスがそう口にした後、魔法が発動し、彼女と担任は職員室から姿を消した。

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