第41話 戦闘


「ほぉ。お前が戦うか中森」


「ああっ。アリスはあんたのせいで負傷したから戦わせられない」


 潤一と担任は簡単に言葉を交わし、戦闘体勢に入った。


「はあ!」


 担任は猛ダッシュして潤一の胸ぐらを両手で掴もうと試みて突っ込んできた。


 潤一は横にスライドして担任の突進を避けるなり、背後から頭目掛けて回し蹴りを繰り出した。


「おっと!」


 しかし、潤一の回し蹴りはヒットせず、担任の右腕によって防がれた。


「・・・空手の回し蹴りか。中々の威力だな」


 担任は後方に下がって距離を取り、仄かに赤く腫れた腕を確かめた。


「アリス達の世界で死ぬほど鍛えられたからな。そして、さっきお前が狙ってたのは柔道の一本背負い投げか」


 両者はお互いの狙った技を的確に当ててみせた。


「まぁ、向こうの世界で色々経験したからにはそれくらいできないとな」


 担任は癖なのか指の関節を再び、鳴らし始めた。


 次に潤一は担任に掴みにかかり、合気道の四方投げを決めようと試みた。


「はっ!合気道の技狙いか!」


 だが、担任の手捌きによって軽く無効化されるなり、彼は即座に回し蹴りを繰り出した。


「くっ」


 潤一はわずかにしゃがんだため、担任の蹴りを受けずに済んだ。その結果、担任の蹴りは空気を切り裂いた。


「ほぉ!2人とも今回もほぼノーダメージか」


 担任は愉快そうに汚い笑みを作った。


 その後、潤一と担任は互角の戦闘をしばらく展開した。


「はぁはぁ。なぜだ。なぜ勝負がつかない。それになぜお前は息が全然上がってないんだ」


 担任はしんどそうに肩で息をしていた。そう、彼の息は荒れていた。


 しかし、潤一は汗1つかいておらず、その上、息も全く乱れていなかった。


「ああっ。それはお前の歳の問題だろ。俺とあんたでは20歳ほど離れていると思うしな。それにこうなるように俺が狙ってたんだ」


 潤一は何も付着していない口元を左手で拭った。


「どういうことだ!?説明しろ!」


 担任は先ほどの冷静さはどこにやら、怒気が篭った口調で犬みたいに大きく叫んだ。彼の声が室内に辟易するほど木霊した。


「ああっ。うるさい。声がでかないな。でも、確かに、説明する必要はあるな」


 潤一は面倒臭げに頭の後方を掻いた。


「言え!早く!勿体ぶるなー!!!」


 担任は躍起になっていた。


「簡単だよ。長期的な戦いになるように仕向けたんだよ。俺が基本的に防御にウェイトを置いてな。そうすれば、俺に与えられるダメージは少なくなって戦闘は長期化する。もちろん、俺も少しは攻撃したがな」


 潤一は捲し立てるように担任に言い聞かせた。


「くっ!俺はお前の戦略にまんまと嵌まったわけか?」


「そういうことだ」


 潤一は口を噤み、戦う姿勢を示した。


「これで終わりだ!」


 潤一は勢い良く右足の回し蹴りを放った。


「くっ!?当たるかー!」


 担任はギリギリのところで身体を逸らし、潤一の蹴りを避けた。


「ここだ!」


 潤一は担任の姿勢を視認するなり、瞬時に左足の回し蹴りを頭目掛けて繰り出した。


「ガッ!?」


 力強く振り回された潤一の左足が担任の頭にダイレクトに衝突した。


 鈍く強烈な一撃が担任を襲った。したがって、担任は呆気なく一撃でダウンしてしまった。





「アリス!やったぞ!!」


 潤一は担任の様子を確認することなく、振り返り呆然と現在の光景を眺めるアリスを視界に捉えた。


「すごいです。すごいですよ。潤一君。本当に強くなりましたね」


 アリスは瞬きを数回した後、賞賛の言葉を潤一に対して送った。


「ありがとう。最高の褒め言葉だよ。それでこいつどうするんだ?」


 潤一は脳内にポンっと浮かんだ疑問をそのまま口にした。


 担任はピクピクっと身体を痙攣させていた。


「ええっ。魔法を所持した人間をこの世界に存在させるわけにはいきません。だから、異世界に送ります。そして・・・」


 アリスは不自然な場所で言葉を区切った。


 緊張感のあるような意味深な間がその場は創造された。


 ここで衝撃な言葉が紡がれることを潤一は知る由もなかった。


「ここで私達はお別れです」


 突如、アリスの誰もが予想だにしなかった発言が室内に行き渡り、潤一の鼓膜をはっきりと刺激したのだった。

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