第37話 敗北


「嘘よ!なんで!どうしてこんな事態が起こったのよ!!!」


 松本は生徒会室の壁を勢いよく蹴った。


 現在、生徒会室にはピリピリとした空気が流れていた。


 片山も俯きながら、右手の指の爪をかじっていた。


「どうしてだ。どうして俺達が負けたんだ!そして、なぜ突如に支持者が離れて行ったんだ!」


 片山は貪るように爪を食べた。


「作戦は完璧だったはず」


「確かに、作戦は良かったと思うよ」


 突如、生徒会室のドアが開放された。ガラッと。


「お前は!」


 片山は目を剥いた後、即座に入室してきた人物を威嚇するように睨みつけた。


 生徒会室に足を踏み入れたのは潤一だった。


「どうしたのかしら?ここは関係者以外は立ち入り禁止だけど?」


 松本は険しい表情で冷たい態度を潤一に示した。


「確かに、普段は関係者以外のカテゴリーに含まれるだろうが、生憎、今日においては異なるんだ」


 潤一は閉鎖的な空間を創造するために、自身が開いたドアを閉めた。


「どういうこと?言いたいことはド直球で口にしてくれない」


 松本は潤一に鋭い眼光を向けた。


 一般的な中学生ではびびって戦慄してしまうほど凄みがあった。


「じゃあ、要望通りに単刀直入にいくわ」


 潤一はタイミングを取るため、トントンっと床に上靴の爪先をぶつけた。


「瑠奈ちゃんに2人が負けた原因は俺が作った。2日前に生徒会室にボイスレコーダーで記録した内容を利用してな」


 潤一は制服のズボンのポケットからボイスレコーダーを取り出した。


『楽勝よね!いくら、川崎瑠奈でも、あなたの力を借りれば敵ではないわ』


『まぁ、当然だよな。俺の女子人気を甘く見るなってんだ。これで川崎瑠奈に恥をかかせられるぜ』


 潤一がスイッチをオンにした結果、彼らの生徒会室での会話が機械から吐き出された。


 松本や片山は衝撃な事実に呆然と佇むことしかできなかった。


 しかし、数秒後に片山は我に帰るなり。


「お前が犯人かー。とにかく止めろー」


 片山はいやらしいキスの音を耳に、潤一からボイスレコーダーを奪い取ろうとした。


「おっと」


 しかし、片山の手は空を切り、突進するようにボイスレコーダーを奪おうとしたため、ドアに勢い良く顔をぶつけてしまった。


 潤一は片山の無様な姿を横目で視認するなり、ボイスレコーダーのスイッチをオフにした。


「そういうことだ。君達は瑠奈ちゃんに負けたんだ!まぁ、文化祭で瑠奈ちゃんに誘いを断った腹いせに恥をかかようとしたから、バチが当たったんだと思ってよ。片山先輩」


 潤一は片山ではなく松本に対してそう言葉を残した。


 片山は顔に痛みを覚えながらも、立ち上がり、視界を取り戻した。


 片山は松本と目線がぶつかった。


「どういうことかしら?その事柄について詳細に教えてくれないかしら」


 松本は明瞭な鬼の形相を形成した。


「さぁ。俺も詳しくは知らないんだ。だから、本人に直接聞いてみてくれ」


 潤一は踵を返すなり、片山の横を通り抜けて生徒会室を退出した。


「ちょ、おい!待て!!話はまだ終わってな」


 片山の言葉が最後まで紡がれることはなかった。


 その後、片山がどうなったかは想像に難くないだろう。

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