第35話 ボイス


 生徒会選挙前日の昼休み。1人の岡西中学の女子生徒がボイスレコーダーを拾った。


「これなんだろう?」


 その女子生徒は中身が気になったため、電源をオンにした。


 ボイスレコーダーの小さな液晶に即座に光が灯った。


「〜〜〜〜」


 数秒後、ボイスレコーダーからある女性の声が吐き出された。


「え!?これって!!」


 女子生徒は幻聴かどうか確かめるため、電話をするように右耳にボイスレコーダーを当てた。


 しかし、ボイスレコーダーからは確実にその女子生徒が知る人物の声が聞こえた。


 どうやら、女子生徒は単独ではなく、とある誰かと会話をしていることがボイスレコーダーの音声から認識できた。


「これって。まさか。そんなことって。・・・ひどいよ」


 女子生徒はボイスレコーダーを耳から遠ざけ、無意識に身体を脱力させ、絶望したような呆れたような表情を作った。


 彼女の心情に反応して、身体は小刻みにわなわなと震えていた。




 その日の放課後。昇降口前。


 潤一や瑠奈の前にはいつもの如く10人ほどの生徒が絶えずその場に存在していた。


 一方、松本と片山の前には2、3人の生徒しかいなかった。


 昨日までは20人以上は定期的にいた。


 だが、今日はいつもとは異なる出来事が発生した。


 しかも、彼らの目の前にいる生徒も平生とは明らかに顔つきや様子が違っていた。


「片山先輩!私は見損ないました。ですから、私は松本さんには絶対に投票しません!!」


 ある女子生徒は真顔で自身の気持ちをぶつけるなり、ずんずんっと荒く足踏みしながらその場を去ってしまった。


「ちょ、ちょっと待ってよ。何があったんだよ〜」


 片山は情けない声をあげ、女子生徒を制止しようと呼びかけたが、反応は返ってこなかった。


「ど、どうしたの?これは現実なの?・・・どうしてこんな事態になるのよ」


 松本は眼球を幾度も左右に移動させ、生徒達が自身から離れて行く光景を直で目の当たりにした。


 他方、止まらず片山は女子生徒達に順番に責められていた。


 逆に、瑠奈の方に人が集まっていった。


 松本はその光景を視認しながら、わずかに残った平静を用いて脳をフル回転させた。


 しかし、思い当たる主要な原因を見つけられなかった。


 いや、実際には見当もつかなかった。


 しかし、それも仕方がなかった。


 なんせ、松本や片山は表立っては好感度を下げる行動を一切取っていなかった。


 これは周知の事実であった。


 その上、神経を集中させてそういった行動を自制していたのだから。


 ではなぜ、彼らにとって不都合であり、損害を被った事実が現実化してしまったのだろうか。

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