第33話 勧誘&ライバル
「どうしたの?中森君。グラウンド付近で佇んで」
愛莉はTシャツに短パンといった運動用の衣服を身に纏っていた。
相変わらず、愛莉の胸はTシャツの下でも存在感を放っていた。
「ああっ。那須さんに用事があってね。ちょっと今、時間良いかな?」
潤一は学生カバンを手に担ぎながら愛莉を視界に捉えた。
「わ、私は大丈夫だよ」
愛莉は潤一に見つめられ、頬を赤くし、照れ隠しで目を逸らしながらサイドの髪をタッチした。
「よかった。じゃあ、単刀直入なんだけど、瑠奈ちゃんが生徒会長になるために手を貸してくれないかな?」
潤一は右手を前方に差し出した。おそらく、協力を求めていることを表すジェスチャーなのだろう。
「えっ。それってどういうこと?ちょっと意味がわからないかな」
愛莉は顎に手を添え、眉をひそめた。
「ごめんね。説明が足りなかったね。端的に言うとね、瑠奈ちゃんが今度の生徒会選挙に生徒会長になるためにエントリーするんだ。その手伝いを那須に今、要請したんだよ」
「ああっ。なるほど」
愛莉は合点がいったのか、頭を2、3度ほど上下に連続でシェイクさせた。
「それでどうかな?できれば協力して欲しいんだけど。もちろん、強制ではないよ」
潤一は愛莉の様子を慎重に窺った。
気を使わせるにはいかなかった。無理やり引き受けてもらっても、両者共に損害を被るだけだから。
「う、うん。いいよ。中森君の頼みなら断らないよ」
愛莉は2つ返事で了承した。彼女の顔からは遠慮する様子は微塵も感じられなかった。
「本当に!ありがとう那須さん!本当に助かるよ!」
潤一は愛莉の両手を握り、自身の10本の指で包んだ。
「ひゃっ。ふ、触れちゃった」
愛莉は目を見開いた後、潤一の手の温もりを覚えた瞬間、顔を真っ赤にしながら、小さく囁いた。
彼女の体温は急激に上昇した。
しかし残念ながら、潤一は愛莉の変化や声に一切気がつかなかった。
翌日の放課後。昇降口前。
「すいません!生徒会長に立候補します。川崎瑠奈です。皆さん、来週の生徒会選挙で私に清き一票を宜しくお願いします!!」
「「「宜しくお願いしまーす!!!」」」
瑠奈に倣って、潤一と愛莉とアリスも頭を下げた。
「えっ。川崎さん、生徒会長に立候補するんだ。俺は絶対に投票するぜ!」
「ああっ。俺もだ」
「私も川崎さんに1票入れようかな」
放課後に瑠奈の言葉を聞いた生徒達は揃いも揃って好印象を抱いた。
主に男子だったが、女子の反応も決して悪いわけではなかった。
やはり、ビッグ3の名は伊達ではなかった。
「思ったよりも順調だね」
潤一は瑠奈やアリスと顔を合わせた。
「そうですね。案外、反応もいいですし」
アリスも潤一と同様の感想を抱いたようだった。
「確かに、反応は良いけど、油断はできないよ。だって、生徒会長に立候補するのは私だけじゃないんだから」
瑠奈はキャラに似合わない真剣な表情で、黙々と生徒達に自身を売り込むためのアピールを行った。
「あらー。挑戦者が頑張っている見たいねー」
「そうだな。無駄な努力してるぜ」
突如、2人の男女の生徒が昇降口から姿を現した。
1人はキレイ系の美人な女子生徒。もう1人は高身長イケメンの男子生徒であった。
「えっ。あれって生徒会長に立候補する元生徒会副会長の松本さんと、前生徒会長の片山先輩よー!」
「キャーー❤️片山先輩ー!!!」
「かっこいいー❤️」
昇降口にたむろっていた女子生徒達が一斉に片山先輩の元に押し寄せた。
「おー。おー。子猫ちゃん達!!元気だねー」
片山は女子達に向けて慣れたウィンクを披露した。
女子達から悲鳴のような歓声が生まれた。
目がハートになる生徒もいた。
「うん?あの先輩どこかで見たような?」
潤一は脳内を整理し、自身が歩んできた過去を振り返った。
すると、いとも容易く疑問は解消された。
潤一は松本を存じ上げなかったが、片山はつい最近に接点があった。
読者の方はお気づきであろうか。
そう、片山は文化祭で瑠奈に壁ドンをしていたあのイケメン男子生徒だったのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます