第31話 文化祭②
「くそ・・・。何で俺なんだよ」
潤一は愚痴をこぼしながら、校庭の真ん中を横切っていた。
校庭内は多数の生徒達が雑談や出し物を催していた。
そんな祭り感がぷんぷんに漂う空間を潤一はテクテクと歩いていた。
なぜ先ほど潤一が愚痴をこぼしたのか。それにはもちろん理由が存在する。
数分前。
「中森。出店の仕事後で悪いが教室の俺の机から紙コップを取ってきてくれ。どうやらかき氷が予想以上に売れすぎて紙コップが足りなくなりそうらしいんだ」
潤一のクラスの担任が仕事終了後の潤一にそう声を掛けた。
「ええ・・・。俺、今仕事終わったばかりなんですけど」
潤一はあからさまに嫌そうな顔をした。
実際、彼の身体は疲労と汗で満たされていた。
「場所は俺の机の上にあるからな」
「先生、俺の話聞いてます?」
担任は潤一の言い分を無視して、強制的に彼を教室に向かわせた。
潤一も何度か抵抗したが、担任が話を聞き入れてくれないため、仕方なく指示に従った。
「いくらなんでも不平等だよなー」
潤一は不平を漏らしながら、校庭と校舎を繋ぐ扉を開けた。
潤一が校舎に足を踏み入れた直後、ある女子生徒が1人の男子生徒に言い寄られている場面が彼の視界に飛び込んで来た。
「ねぇねぇ。俺と一緒に回ろうよ」
顔の整った高身長のイケメン男子生徒が女子生徒に壁ドンをしていた。
「すいません先輩。お断りさせていただきます」
瑠奈は壁ドンされながらも、上目遣いにその男子生徒の目を見て、丁重にお断りしていた。
「そんなこと言わないで!どうせ、照れてるんでしょ」
イケメン男子生徒には話が通じないみたいだ。
その証拠に断られたのにも関わらず、彼はより瑠奈に自身の身体を接近させた。
「や、やめてください。近いです!離れてください」
瑠奈はあからさまに困惑した表情を露わにしていた。
「はい。ストップです」
潤一は男子生徒の肩に手を置いた。
「うん?」
男子生徒は顔だけ潤一に向けた。
「君、今大事なところなんだ。悪いけど部外者はどっかに」
「潤君!」
瑠奈は男子生徒の言葉を遮り、潤一の腕に抱きついた。
「すいません先輩!私、潤君と一緒に回るので失礼します!!」
瑠奈は「さっ、行こ。潤君!」とだけ言うと、駆け足で潤一と共にその場を離れた。
イケメンの男子生徒は突然の出来事に呆然と彼らが走る光景を見つめていた。
彼には哀愁が漂っていた。
「はぁはぁ。ここまで来れば大丈夫だね」
瑠奈は息を荒しながらも安堵したような笑顔を作った。
「そうだね。大丈夫だった?」
潤一は瑠奈の様子を窺いながら、質問を投げ掛けた。
「うん。大丈夫だよ。あの先輩、先週からずっと一緒に回ろう回ろうって誘ってきてたんだ。何回も断ってたんだけど、諦めてくれなくて。それで壁ドンされたの。でも、潤君のおかげで助かったよ!」
瑠奈は腕により力を込めた。
「ちょ、ちょっと瑠奈ちゃん!スキンシップが激しいよ!!」
潤一は瑠奈の行動を指摘しつつも、動揺した顔を作った。
「だって〜。潤君とは触れ合っていたいんだもん〜」
瑠奈は甘い声を出し、上目遣いで潤一の瞳を覗き込んだ。
潤一は瑠奈の綺麗な瞳に目を奪われ、ドキッとした。
「と、とにかく俺はちょっと急いでるんだ。早く教室に行かないと」
潤一は瑠奈から目を逸らした。
「そうなんだ。じゃあ、今から行こうよ!もちろん、私も同伴するよ!確か、潤一君はA組だったよね」
瑠奈は潤一の腕にしがみつきながら、2年A組の教室にゴーした。
「おー。ご苦労だったなー中森。それで隣にいるのは彼女か?」
担任は潤一から紙コップを受け取るなり、唐突に瑠奈を指差した。
「ちょ、ちょっと先生!か、彼女だなんて!!」
瑠奈は頬を紅潮させながら、視線を下方に髪をいじった。
「ち、違いますから!勘違いしないでください!」
潤一は瑠奈の腕から離れ、顔の前で手を左右に何度も振っては否定した。
瑠奈は自身から潤一の腕が離れた瞬間、名残惜しそうに悲しげな瞳を形成した。
「ほぉー。それにしても中森はここ1月(ひとつき)で劇的に変わったよな」
担任は腕を組み、うんうんっと2、3度頭を縦に振った。
「変わった?どこがですか?」
潤一は担任の言葉に引っかかりを覚えた。
「いやー。なんというか、目つきが変わったなとここ最近思ってたんだよ。なんていうか、中森の目が以前とは異なり自信を手に入れたような目つきに変わってるんだ」
担任は首を傾げながら、言葉を紡いだ。
「はぁ、そんなに短時間で変わるんですかね」
潤一はその変化を理解しつつも、とぼけた返答をした。
「いや、俺にはわかるぞ」
担任はグッと胸の前で拳を力強く握った。
一方、瑠奈は担任と潤一が話す光景を頭にクエスチョンを浮かべて見やっていた。
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