第30話 文化祭①
「わー。すごいですね。これが文化祭というものですか!」
アリスは感嘆した様子で辺りを見渡した。
「落ち着きなよアリス。さすがに興奮しすぎだよ」
潤一はアリスの何度も周囲を眺める忙しない動きを視認するなり、やんわりと彼女をたしなめた。
「それは無理もないですよ。だって、文化祭というイベントは私達の世界には存在しませんから!」
アリスは鼻息を荒らしながらも、おっとりとした口調は崩さなかった。
「確かに。そうだったね・・・」
潤一は異世界での苦い経験を回顧し、げんなりとした顔を示した。
岡西中学校では文化祭があり、1年の中でもトップレベルで盛り上がる学校行事であった。
この文化祭というイベントがあることは他校とは一線を画していた。
「私は色々回りたいのですが、まず私達はこれからある仕事を遂行しなければなりませんね」
アリスは楽しそうな表情で売店が幾つも設置される1つのエリアを指差した。
そのエリアの売店では煙が上方に立ち上るものも存在した。
「ああ。そうだね。俺らの番はもうすぐか」
潤一は気怠げにぼやくと、アリスの後方を追従するように前進した。
「潤一君!もっと氷を用意して!!」
アリスは大きめの紙コップに積まれた氷にイチゴやメロンのシロップを程よく垂れ掛けた。
「おう!任せとけ!!」
潤一は「ウォォォーー」と叫びながら、かき氷機のハンドルをものすごい勢いで回し続けた。
彼の額や身体には大量の汗が止まらず噴出していた。
だが、彼の汗の量に比例して氷は紙コップに溜まっていった。
「ほい!アリス!」
潤一は多量に香りが詰まった紙コップをテーブルに置いた。
「ありがと!」
アリスはテーブルから紙コップを取り、手早く氷にイチゴのシロップを吹き掛け、ストローを刺した。
「はい!お待たせしました!かき氷のイチゴとメロンです!!」
アリスは眩しい営業スマイルを駆使しつつ、お客にかき氷の入った紙コップを手渡した。
現在、潤一達が身を置く売店が密集するエリアではお客の奪い合いが絶え間なく繰り広げられていた。
売店を開くのは全て2年生のクラスであり、岡西中学の規定に従っているため、2年生だけが売店内に存在した。
「ねぇ、アリス。まだ、お客さん並んでる?」
潤一は休む暇なくかき氷機のハンドルを一生懸命に回しながら、カウンターに立つアリスに尋ねた。
彼の汗はより一層増加していた。
「そうですね〜。あと20人ぐらいはいますね」
アリスは目視して得られた情報を基に、おおよその人数を推測して潤一に伝えた。
ところで、潤一達が運営する売店はかき氷を販売する店であり、これはクラスで決められた。
その売店にはアリス目当ての生徒や学生の保護者が空白を作らず、どんどん押し寄せるように列を作っていた。
そのため、かき氷を作っても作ってもお客は減らなかった。
「まじか。これは骨が折れるぞ」
潤一はそれから、逆境に立たされながらも、ひたすらかき氷機を回し続ける羽目になった。
最終的に、彼の作業は30分間も継続された。
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