第29話 今度は3人
「さっ!潤一君帰りましょ!」
アリスは軽いスキップを踏みながら、潤一の席に立ち寄った。
「ああっ。もうちょっと待ってくれ。まだ帰りの支度が終わってないんだ」
潤一はアリスに声を掛けられたことで、以前よりも手を加速させ、教科書やノートを机から自身の学生カバンへとリズム良く移転させた。
「ごゆっくり。急がなくてもいいですからね」
アリスは多少急ぎながら手を動かす潤一を眺めながら、柔和な余裕のある笑みを浮かべた。
その数秒後、教室の後方の戸から1人の女子生徒が入室した。
「潤君!潤君!私、今日は図書委員の仕事がないんだ〜。だから、一緒に帰ろうよー!!」
瑠奈がものすごい勢いで潤一の元に駆け寄ってきた。
さらに、1秒後、今度は前方の戸から女子生徒がインした。
「中森君。今日は私、陸上部の練習がないの。だから、一緒に下校しない?」
愛莉は早歩きで瑠奈やアリスの付近に到着し、潤一を下校に誘った。
「「うん?」」
愛莉と瑠奈が同時にアリスを視認した。
「潤一君、この方は?」
瑠奈はアリスから潤一に目線を推移させた。
現在、潤一は帰りの支度を済ませ、イスに臀部を接していた。
「あ〜。あの。俺の昔からの知り合いで・・・」
「はい。私、潤一君の友達のイリーナ・アリスと申します。外国人ではありますが、日本語は問題なく話せます。潤一君のお知り合いの方ですよね?ぜひとも、どうぞ宜しくお願いします」
アリスは潤一の言葉を途中で遮り、淀みない口調で簡単な自己紹介を行った。
相変わらず、アリスからは中学生とは思えないほどの底知れない余裕を感じられた。
「「ははぁ、・・・宜しくお願いします」」
愛莉と瑠奈は全く同様の言葉を口にし、無意識に頭を軽く下げていた。
「ちょ、ちょっと、那須さん。あの人は何者なの?」
「それはこっちのせりふよ!川崎さんも知らないの?」
愛莉と瑠奈はアリスに背を向け、コソコソと隠密に小声で気になった事柄をそれぞれ発していた。
「それにしても。やばいねライバル登場だよ」
「そうね。あなただけでも厄介なのに。あんな別世界の人間のようなきれいで美しい女性が相手になるだなんて」
愛莉と瑠奈は揃って弱音を吐いた。
しかし、無理もない。それほどアリスは顔立ち、雰囲気ともにアニメから出てきたような別世界の人間を彷彿とさせる女性だった。
だが、愛莉や瑠奈もそれぞれ良さがあり、顔面偏差値においてはアリスに全く引けを取っていないのも周知の事実であった。
その証拠に。
「お、おい!あの中森が今日はビッグ3に囲まれてるぞ!」
「く〜〜。那須さんと川崎さんだけでなく、イリーナさんまで。俺達のアイドルは全員、中森と親しいのかよ!!」
「うわぁー。羨ましいー!どれだけ前世で徳を積めばあれだけの美少女達に言い寄られるんだー」
クラスの男子達から悲鳴のような怒号のような音が生まれた。
騒がしさのレベルでは東京のハロウィンに匹敵するレベルではないだろうか。
しかし、彼らが繰り返し口にする美少女達には残念ながら全く届いていないようだった。
「あらあら。潤一君モテますね〜。このこの〜」
アリスは意地悪そうに右膝で潤一の腕を小突いた。
「・・・。アリス、楽しんでるだろ?まじで。俺にとって今は修羅場だからな」
潤一はジト目でアリスを見上げた。
「そうかな?ごめんなさい。私にはわからないかも」
アリスは威圧感のある潤一の視線をいとも簡単に受け流し、ぷいっと顔を逸らした。
相変わらず、潤一はアリスに上手いこと扱われてしまった。
「・・・潤君、おそるべし」
「そうね。その感想には私も同感する」
愛莉と瑠奈は潤一とアリスの掛け合いを視界に捉えた後、全く同じ感想を抱いた。
2人とも感性が似ているのかもしれない。
ところで、アリスの存在が要因なのか。
愛莉と瑠奈は今日(こんにち)初めて潤一の前で言い争いを起こさなかった。
この事実は潤一にとって不幸中の幸いかもしれなかった。
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