第26話 ご近所さん
「それで、俺を異世界に移動させるよう頼んだ人間がどこにいるか、見当はついているのか?」
秋の風が止み、潤一とアリスの2人は並びながら住宅地に接した地面を歩いていた。
「う〜ん。データはないですけど、潤一君の住む街にいるということは確信を持って言えますね」
「どうして、そう断言できる?」
「だって、異世界に移動させるよう頼むってことは潤一君をある程度知っている人間じゃないと行動に移さないと思うんですよ。それに、行動範囲の狭い潤一君を知っている人間は同じ街に住む限られた人間しか知らないと思うので」
アリスは「でしょう?」と潤一に共感を求めた。
「確かに、筋は通ってるな。それにしても、ひどいな。俺の行動範囲が狭いだなんて。そんなに陰キャじゃないぞ」
潤一は共感はしたが、アリスの自身に対する評価に対しては納得がいかず反論した。
「陰キャではないかもしれませんが、実際に行動範囲は狭いと思いますよ。だって、私達の世界に身を置いていた時、潤一君は学校と自宅の往復だけしか経験していないはずです」
アリスは揶揄うような口調で、過去の潤一の行動を例に出し、自身の評価の正当性を示唆した。
「うっ。確かにそうだが」
潤一は顔をしかめ、ぐうの音も出なかった。実際に、彼は異世界で学校と自宅(異世界の)以外行かなかった。
そのため、潤一は向こうの世界の有名な観光地やら名所などを一切記憶せずに、彼の世界に帰還した。
「そ、その話はここで一旦終わらせて。アリスの家はどこにあるんだ?」
潤一は都合が悪くなり、話題をすり替えた。
「確か、もうちょっとです。ほら、ありました。あのアパートです」
アリスは4階建てのホワイトのアパートを指差した。
そのアパートは築5年以下の小ぎれいな建築物だった。
「潤一君の自宅はこの住宅地の中にあるんですか?」
アリスは腰を少し屈めながら、上目遣いで問い掛けた。
「・・・そこ・・・」
潤一はシロクマのような真っ白な2階建ての1軒家を指差した。彼の自宅だった。彼は驚きと偶然から目が点になっていた。
「わぉーですね。まさか、潤一君とご近所になってしまうとは。予想外でした」
アリスは雪のような長いホワイトの髪を5本の指でいじりながら、嬉しそうに微笑を浮かべた。
潤一はアリスの住むアパートを見上げ、無意識で上の空に陥っていた。
「潤一君!」
アリスはキャラに似合わない大きな声を出し、潤一を我に返らせた。
「今日から短くなるか長くなるかわかりませんが、宜しくお願いします!」
白のセーラー服に緑のスカートを纏ったアリスは丁寧に身体を垂直に折り、お辞儀をした。
潤一はその光景を目にし、ぎこちなく一言言返事をすることしかできなかった。
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