第25話 アリスの目的


「久しぶりですね。潤一君」


 アリスは学校を抜け、潤一と帰路に着いていた。


「どういうことだ?どうしてアリスがこの世界にいるんだ?」


 潤一は未だに信じられない気持ちを胸中に留め、今朝から気に掛かっていた疑問を投げ掛けた。


「いきなりその話ですか?もうちょっと思い出話をしましょうよ」


 アリスはおっとりした調子で楽しそうに微笑を浮かべた。


「もういいだろ。それに俺は思い出話に集中できないくらいに信じられないことが今朝起こったんだ」


 潤一は真顔でアリスの提案を拒絶した。


「確かにそれは無理もないでしょうね。なんせ、潤一君が最近までいた異世界の人間である私があなたの生活するこの世界に来たのですから。さぞ驚愕もするでしょう」


 アリスは顎に手を当て、控えめに小さな笑い声を漏らした。


「そうだ!おっしゃる通りだ。この際、なぜアリスが俺の世界の言葉をしゃべれるかについては聞かない。なぜなら、俺も向こうの世界では不思議としゃべれたからな。おそらく、この世界の言葉が異世界の言葉に変換されてるんだろう」


「おそらく、そうでしょうね。不思議ですね?」


 アリスは潤一とは真逆で、余裕たっぷりな表情で視線を向けた。


「アリス、誤魔化さないでくれよ。俺が聞きたいことは分かってんだろ。この世界にどうやって来たのか、それとなぜ来たのか、この2つを教えてくれないか?」


「わかりました。では1つヒントを差し上げます」


 アリスは人差し指をぴんっと上方に立てた。


「私達の世界で魔法が存在することはご存じですよね?」


「ああっ。向こうの世界の講義で嫌というほど叩き込まれたからな」


 潤一は異世界での過酷な生活を思い出し、げんなりと盛大に顔を歪めた。


「そうです。あなたが苦労した学問でしたよね。それでここからが本題です。この魔法で何ができたか?これがヒントです」


 アリスは「さあ頑張って脳を働かせてみてください!」と鼻歌交じりにリズムを刻みながら歩を進める。


「う~ん。確か、タイムスリップとトリックと万物の創造、異世界への移動。・・・。まさか、アリス、異世界への移動魔法を使ったのか。しかも、あれはどこの異世界に行くかは選択できなかったはずだ!」


 潤一は足を止め、外にも関わらず、他者関係なしに大きな声を出した。それほど、アリスが使った魔法は恐ろしいものだった。


「正解で~す。さすが潤一君ですね」


 アリスも潤一に合わせて足を止めた。


 彼女は切羽詰まった様子を微塵も見せず、逆に大和撫子を彷彿とさせるようなおっとりさを醸成していた。


「そう。潤一君の言った通り、異世界への移動の魔法はどこの違う世界に行くかわからない、危険な魔法です。しかし、私はそのリスクを取ってでも、その魔法を使った。異世界から消えた潤一君にもう1度会って、私の目的を果たすために」


 アリスは余裕と笑みを抹消し、潤一に真剣な表情を示した。


 アリスの表情に呼応して、秋の風が2人を襲った。


 地面に落ちた葉っぱや石、彼らの髪の毛が力強く一方通行にプルされた。


「そう、潤一君を異世界に移動させるように依頼した人間をこの世界で見つけるために」


 アリスは風に打たれながらも、髪を一切押さえずに潤一を両目で捕らえ、決して離そうとしなかった。


 潤一も釣られて同様の行動していた。

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