第18話 大活躍


「ここが開催場所の体育館か」


 潤一は岡西中学の体育館の2倍はある巨大な体育館を見上げた。


 岡山笠岡体育館。


 これがこの体育館の名称である。


 笠岡体育館は大きな公園の中に居を構える体育館であり、岡山県では有名な体育館である。


 潤一は岡西中学校から笠岡体育館までバスケ部員が乗ったバスに揺られた。到着まで時間は2時間ほど掛かった。


 潤一やバスケ部員達は予め指定された待機場所に荷物を置き、各々自由な行動を取った。


 潤一もその1人であり、2階建ての体育館の1階に設けられた自動販売機に足を運び、スポーツドリンクを1本買った。


 潤一は吐き出されたペットボトルを手に取り、待機場所に帰還しようとした。


「あ!潤君だ!!」


 帰路の途中で私服姿の瑠奈に話し掛けられた。どうやら、本当に潤一の試合を見に来たらしい。


「え!瑠奈ちゃん!早いね。まだ試合始まってないよ?」


 潤一はいきなり瑠奈に話し掛けられたことで目を見開き、思わず驚いた声を上げてしまった。


「試合が始まる前に来るのは当然だよ。だって試合前の潤君と話したかったんだもん!」


 瑠奈は夏用の袖の短いホワイトのブラウスに黄緑のロングスカートを身に付けていた。


「そうなんだ。わざわざ見に来てくれてありがとう。絶対に恥ずかしいプレイは披露しないから」


 潤一は昨日、自主練習中に決意した思いを瑠奈に伝えた。


「うんうん。でもそんなに気負わなくてもいいよ。潤君のベストを尽くしさえすればいいんだから。私はどんな潤君も受け入れるから!」


 瑠奈はぐっと胸の前で両手の拳を握った。


「そうだね。確かに気負いすぎていたかも」


 潤一は瑠奈の言葉で多少なりとも緊張が解れ、笑顔を作った。


「そうそう!多少でも余裕を持ってるぐらいが丁度良いんだよ。それと、えいっ!」


 瑠奈は潤一の身体に勢い良く抱きついた。


「ちょ、ちょっと。瑠奈ちゃん何してるの!」


 潤一は動揺し、間抜けな声を出してしまった。


「私のパワーを潤一君に送ってるんだよー。届け私のパワーってね☆」


 瑠奈は潤一の背中に腕を回し、ぎゅーっと力を込めた。その結果、彼女の揉める程度はある柔らかい2つの脂肪の塊が潤一を遠慮なしに刺激した。


 潤一は多くの刺さるような視線を体育館に身を置く人間達から向けられた。


「よし!注入完了!それじゃあ試合頑張ってね!」


 瑠奈は潤一の肩に両手を軽く置くと、手をひらひらと振りながら潤一から離れていった。





 試合開始1分前。


 潤一は背番号7のユニフォームを着て、コートに足の裏を付けていた。


 チームメイトである岡田や他の部員も隣に並ぶ形にコートの中央に整列していた。


 相手校の旭西中学校の選手も同じように整列していた。


「それでは試合を開始します。ピッ」


「「宜しくお願いしますー!!」」


 挨拶が終了し、ジャンプボールの準備が成された。バスケはジャンプボールで先行と後攻を決めるのだ。


 岡西中学のジャンプボール参加者は岡田だった。


「ウォーウォーウォウォ」


 チームを鼓舞する応援が左右の観客席から生まれた。おそらく、観客席にそれぞれの中学の応援隊がいるのだろう。


 潤一はジャンプボールが始まるまでの間、観客席を眺めていた。


 彼の視界には大きく手を振る瑠奈の姿があった。


 潤一は彼女の姿を視認するなり、より一層気持ちを引き締めた。


 審判によってジャンプボールが開始され、ボールが高く宙に放られた。


 そのボールを岡田が潤一に向けて弾き、一般的に背の低い人間が担うポイントガードという役割を任された彼の手元にボールが収まった。





 第4クォーター。最後の8分。


「うぉー。すげぇーー。これで30点目だぞ」


 観客の1人が周囲構わず大きな声を出した。


 潤一は股にボールを通し、フェイントを入れた後、相手を抜き去ってゴール下でシュートを決めた。


 32点目。


 潤一しか見ていない瑠奈が身体を上下させながらはしゃいでいた。


 潤一は相手チームからボールをカットすると、ダッシュでゴールに走りレイアップシュートを決めた。


 34点目。


「キャー!かっこいい!!」


 瑠奈は観客席の近くに設けられた手すりを叩きながら、黄色い声を限界まで出した。


 その後、潤一は40得点を決め、チームを勝利に導いた。


 続く2回戦も潤一は50得点し、岡西中学をベスト16に導いた。


 潤一はバスの乗る前に監督や部員、瑠奈に散々ちやほやされた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る