第17話 同じ日にLiME


「とうとう明日か」


 潤一は自宅の近所のバスケットコートに身を置きながら、ぼそっと誰にも聞こえない声で無意識につぶやいていた。


 潤一がスマートフォンの画面を確認すると、時刻は20時過ぎだった。


 夏休み初日から今日までの10日間、潤一は岡西中学校男子バスケ部のすべての練習に参加した。


 助っ人ということもあり、監督と部員一同も快く歓迎してくれた。


 単刀直入に言うと、潤一の実力は通用した。やはり、異世界での経験が生き、彼はバスケ部員の誰よりも実力が上だった。


 誰も彼の得点を阻止できる部員は存在しない上、誰も彼のディフェンスを崩せる人間もいなかった。


 肝心のチームプレイも最初は上手に合わせることが出来なかったが、時間を掛けた結果、潤一はチームのプレイスタイルにばっちり適合することができた。


「はー。それにしても緊張する・・・」


 潤一は気を紛らわすために、何の気無しにゴールに向かってシュートを放った。


 綺麗なワンハンドシュートから打たれたボールは弧を描き、ゴールに吸い込まれた。


 パシャっとゴールに備え付けられたネットが豪快に音を立てた。


 潤一はこれまでの人生で1度も部活の試合に出場した経験がなかった。


 そのため、実力があっても、初めての舞台なためどうしても緊張して気持ちが落ち着かなかった。


 ぶぶッ。


 半袖、半ズボン姿である潤一のスマートフォンが振動し、太もも辺りにぶるぶると刺激が伝達された。


 潤一はズボンのポケットからそれを取り出し、画面を確認した。


 画面にはLiME(リメ)というSNSからの通知が存在感を醸し出していた。通知は瑠奈からだった。


「どうしたんだろう?」


 潤一は着信の内容を確認するために、通知バーをタップした。


       LiMEトーク画面


瑠奈『潤君!明日時間ある?一緒に買い物に

   行かない?』


潤一『ごめん!明日、男子バスケ部の助っ人

   として大会に出なければいけないん

   だ』


瑠奈『それって潤君がバスケの試合に出るっ

   てこと?』


潤一『うん。そうだよ』


瑠奈『うそ!絶対に見に行く!!場所教え

   て!!!』


潤一『結構遠いよ。岡西中学から2時間は

   掛かるよ?』


瑠奈『大丈夫👌時間は関係ないから!!』


 潤一が試合の開催場所を位置情報を使って示した。


 既読がつき、瑠奈からお礼の言葉とムーブする子犬のスタンプが送られてきた。


 子犬の上には「頑張って」と可愛らしいデザインの太文字があった。


「ふー。それにしても、明日、瑠奈ちゃん来るんだ。これは恥ずかしいプレイはできないな」


 潤一は素早く力強いドリブルをした後、上に高くジャンプし、シュートを放った。いわゆる、ジャンプシュートという奴だ。


 ボールは先ほどと同じ弧を描き、再びゴールに吸い込まれた。


 ボンボンっとボールが砂の地面を跳ねる音だけが公園内に木霊する。


 ぶぶッ。


 また、潤一のスマートフォンが振動音を吐き出した。


 彼は再度、スマートフォンの画面を確認した。お次は愛莉からの通知だった。


       LiMEトーク画面


愛莉『中森君。明日時間ある?遊園地にでも

   行かない?』


潤一『ごめんね。明日バスケ部の助っ人とし

   て県大会に出なければいけないんだ』


愛莉『そうなんだ。ごめんなさい、その大事

   な予定も知らずに』


潤一『大丈夫だよ🙆‍♂️だって教えてなかった

   し。知らなくて当然だよ』


愛莉『ありがとう。また予定が空いてる日を

   教えてね?」


 愛莉から子猫のスタンプが送信された。子猫の上には「ファイト」といった文字があった。


 潤一は既読を付け、ズボンのポケットにスマートフォンを仕舞うと、練習を開始した。


 練習は22時まで続いた。

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