第16話 助っ人の要請&夏休み前日


「頼むよ!中森。お前ならできると思うんだよ!!」


「そんなことはないと思うけど」


 今日は1学期の最終日。


 明日から皆が待ち望んだ夏休みだ。


 そんな幸せを感じる本日、潤一は終業式の終了後、体育館付近で岡田というバスケ部の生徒からある要請を受けていた。


「本当だって。中森なら俺達の部活に助っ人として大会に出たら、大活躍できる。俺達を県大会ベスト16まで導いてくれるはずだよ!」


 岡田は熱心に訴え掛け、何とか潤一からYESの返事を促そうとしていた。


「それでもなー」


 潤一は胸の前で腕をクロスさせながら、顔をしかめた。


 潤一は異世界で、入れる、蹴る、投げる、打つ、といった向こうの世界でのスポーツを嫌というほど一生懸命に取り組んだ。


 これらはそれぞれ現実世界での、バスケ、サッカー、野球、テニス、と全く同じルールと内容だった。違うのは名前だけだった。


 そのため、潤一はこの4つのスポーツでは玄人レベルのプレイを披露できる。


 しかし、彼のプレイは異世界では通用したのだが、現実世界の人間に通用するかは定かではなかった。


 だから、確実に岡田が所属する部活を勝たせる約束が果たせない可能性が危惧されたため、潤一は了承を躊躇っていた。


「頼むよ!バスケ部のエースが怪我して、県大会の1回戦と2回戦はそいつが試合に出られないんだ。その2試合だけ出てくれればいい。だからお願い!」


 岡田は両手をぴったり合わせて頭を下げた。


「わかった。1回戦と2回戦に助っ人として出ればいいんだね」


 潤一は岡田の熱意に負け、助っ人で試合に参加することを了承した。


「おおっ。本当か!恩に着るよ」


 岡田は頭を上げ、子供のような無邪気で純粋な喜びの表情を示した。


「でも1つ条件があるんだ」


 潤一はクロスしていた腕を解き、人差し指を1本立てた。


「おう!呑める条件ならなんでも呑むぞ!!」


 岡田はばっち来い来いっと煽るように手招きをした。


「じゃあ遠慮なく」


 潤一は岡田の不可思議な行動を視認し、やんわりと苦笑を浮かべた。


「県大会が始まるまで俺もバスケ部の練習に参加してもいいかな?」


 潤一は受容されるか不明な質問を投げ掛けた。


 彼は異世界でバスケを経験しているが、あくまでバスケはチームスポーツである。


 そのため、短い時間ではあるが、一時的にチームメイトになる選手とプレイをして、チームのプレイスタイルを少しでも理解しておきたかった。


「おう!当然だろ!そんなんわざわざ聞かなくてもいいぜ!とにかく!中森が練習に参加できるように今から監督に話をつけてくる!!」


 岡田はテンションマックスで捲し立てるなり、サムズアップし、踵を返してダッシュでその場を去就した。


 岡田は豪快に腕と足を振り上げていた。


 数秒経つ頃には岡田の姿は点に変化していた。


 潤一は岡田を制止せずに、ただただ彼の後ろ姿を呆然と無心に見つめていた。





「よ~し。この辺で帰りの会を終了させるぞ。それと、明日から夏休みだが、楽しみつつ羽目は外しすぎるなよー。頼むぞー」


 男性の担任はきちんと念を押した後、解散を宣言したを


 数秒後、生徒達の話し声や移動が災いしてクラスに多大な喧騒の渦が生まれた。


 生徒たちは各々好き勝手な行動をしていた。


 雑談する者、帰宅する者、席に座る者、他のクラスに足を運ぶ者、など千差万別であった。


 そんなカオスとも捉えられる空間に2人の美少女が足を踏み入れた。


 1人は前の戸から。もう1人は後ろの戸からそれぞれ入った。


「中森君」「潤君!」


 愛莉と瑠奈は同時に潤一の席に到着した。


 潤一は帰る支度の真っ最中であり、その作業を止め、交互に2人に視線を移動させた。


 その光景が教室に発生するなり、クラスにはざわめきが起こり、潤一達は無数の視線を受けた。


「おいおいまじかよ!またビッグツーがあの中森に近寄ってるぞ!」


「確かに中森の運動神経はすごいが、漢はそれだけじゃないだろー。ビッグツーの那須さんと川崎さんはステータスよりも人柄を見てくれると思っていたよ・・・」


「確かに、中森君、運動もできて落ち着いてるもんね。女子から見たらすごい魅力的だもん」


「うん。正直に言って私も中森君良いなぁ〜と思ってるし」


 口々にクラスメイトから言葉が紡がれた。


 まだ言葉は絶えず紡がれていた。皆、言いたい放題であった。


 しかし、注目を掻っ攫っている当の愛莉と瑠奈は周囲の反応など一切気にしていなかった。


 いや、もしかしたら周りの声など耳に入っていないのかもしれない。


「なんであなたが来るのよ!あっ、中森君、夏休みに予定空いてない?それと学校を出てから連絡先も交換しようよ!」


「那須さんにも同じことが言えるよね!えっと、潤君、夏休み空いてる日はない?海でも行こうよ?それと連絡先もね・・・」


 愛莉と瑠奈は潤一の夏休みのスケジュールの奪い合いを図った。彼女たちは早い者勝ちで予め予定を押さえておきたいのだろう。


「那須さんも瑠奈ちゃんも一旦落ち着いて!ね?」


 潤一はクラス全体を見渡し、置かれた状況を確認し、まず勢いが隆盛な2人を落ち着かせようと試みた。


 この潤一の行為の結果は読者様に頑張って推測していただきたい。

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