第344話 レイドメンバーと依頼人
(作者より)
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昨日の段階ではまだだったので間に合わないかと思ったのですが、ギリギリ間に合わせてくれたようです。よかった!
紙書籍、電子書籍、また1~3巻ともども、どうぞよろしくお願いします。
すでにお買い上げくださった方は、ありがとうございます!
***
「おっ、その子たちがこのレイドクエストを受ける、三つ目のパーティかい?」
「おう。これでレイドメンバー全員が揃ったってことだな」
体格のいい女性冒険者の声に、虎人族の男が応える。
この二人はそれぞれ、別の冒険者パーティのリーダーのようだ。
冒険者ギルドの一角、待合に使われる場所には、俺たちも含めると総勢十二人の冒険者が集まっていた。
ギルドの受付でクエスト受託の手続きを済ませた俺たちは、虎人族の男に連れられてここにやってきた。
虎人族の男はレグルドと名乗った。
このあたりの地域を縄張りとする冒険者パーティの一つ、「ワイルドファング」のリーダーであるという。
俺たち「大地の槍」の三人と、レグルドさん率いる四人組の冒険者パーティ「ワイルドファング」、それにもう一つのパーティで、このレイドクエストに挑むことになるようだ。
もう一つの冒険者パーティは、どうやら五人組のようだった。
パーティリーダーと思しき女性冒険者は、見たところ二十代後半ほどのヒト族だが、女性とは思えないほどに体格がよくガッチリしている。
ボディビルダーの女性を彷彿させる容姿で、割れた腹筋を見せつけるように腹出しの衣装を身につけていた。
その女性冒険者は俺の前に歩み出てきて、握手を求めてきた。
「あんたがパーティリーダーかい? あたしはアデラ、冒険者パーティ『紅蓮の斧』のリーダーをやってるもんだ。よろしく頼むよ」
「は、はい。『大地の槍』のリーダーをしている、大地という者です。今回のレイドクエストではお世話になります。よろしくお願いします」
俺は握手に応じる。
相手の女性冒険者──アデラさんの勢いに押されて焦り、ちょっと声が裏返った。
すると握手を終えたアデラさん、両手で俺の肩をバンバンと叩いてきた。
「あっはっは、礼儀正しい子だね。冒険者をやるにしちゃあ、ちょいと気弱すぎる気もするけどさ。嫌いじゃないよ、あんたみたいのも」
「ど、どうも」
「ふふふっ、かわいいねぇ。食べちゃいたくなるぐらい」
俺の顔を見て、ぺろりと舌なめずりをするアデラさん。
顔は美人だが、少しだけ背筋が凍った。
すると俺の前にバリケードを張るように、二人の女子が進み出てきた。
風音と弓月だ。
「すみません。うちのリーダーに粉をかけるの、やめてもらってもいいですか」
「先輩はうちと風音さんのもんっすからね! 横取りはダメっす!」
ふしゃーっ、ぎにゃーっ、と鳴き声が聞こえてきそうな勢いで威嚇するうちの嫁たち。
するとアデラさんは目を丸くして、次にからからと笑った。
「あっはっは、そういう感じね。分かった分かった。人の獲物に手出しはしないよ」
そしてパーティメンバーと思しき四人の冒険者がいる方へと戻っていった。
見送った風音と弓月が、大きくため息をついた。
二人が振り向いて、ジト目を向けてくる。
「ねぇ、大地くん。こっち来てから、ちょっとモテすぎじゃない?」
「そーっすよ。先輩のくせに生意気っす。先輩は非モテ属性のほうがかわいいっす」
「いや、そんなこと俺に言われても。ていうか弓月、お前も言いたい放題だな」
俺たちがそんなやり取りをする一方では、アデラさんのもとにレグルドさんが歩み寄っていた。
耳を澄ませると、こんなやり取りが聞こえてくる。
「おい、アデラ」
「なんだい? ははーん、さては嫉妬でもしたかい?」
「悪いかよ」
「あははっ、ごめんごめん。冗談だってば。一番はレグルド、あんただけだよ」
「ったく」
頭をバリバリと掻く虎人族のレグルドさんと、それを見て楽しそうに笑うアデラさん。
二つの冒険者パーティの面々も、ニヤニヤしながら二人の様子を見守っていた。
あそこ二人、別のパーティなのにそういう仲?
いろいろあるんだなぁ。
風音と弓月もその様子を見守りながら、俺に寄り添ってくる。
「でも大地くん、今回はわりとまともそうな人たちでよかったね」
「うちらこれまで、レイドクエストにはいい思い出がないっすからね」
「あー、確かに」
キラーアント討伐のときの「暁の戦士団」をはじめとするチンピラ冒険者たちといい、ヒルジャイアント討伐のときのゲルゼルといい、これまでのレイドクエストではまともな共闘メンバーには恵まれてこなかった。
それと比べて、今回は第一印象が最悪の人がいない。
なんて素晴らしいことだろう。
まあ一緒にクエストをやっていく中で嫌なところなども見えてくるかもしれないが、多少の軋轢ぐらいはしょうがないことだしな。
と、そんな具合で俺たちは、ほかの二つのパーティのメンバーと互いに挨拶を行った。
特に深入りするわけでもないが、少なくとも表面的には友好関係を築いておきたいところだ。
弓月などは持ち前のフレンドリーさで、二つのパーティのメンバーともさっそく仲良くなっているようだったが。
そうして、今回のレイドクエストは珍しく円滑に進みそうだなと思っていた矢先のことだった。
一人の中年男が、俺たちがいる待合場所へとやってきた。
年の頃は四十ぐらいに見える。
やや太りめの体型のヒト族の男で、顔などは少し脂ぎったようにも見える。
中年男は手拭いで額の汗を拭いつつ、十人を超える冒険者たちの前に立ち、尊大な様子でこう口にした。
「よし、揃っておるな。私が護衛依頼のレイドクエストを出した、依頼人のマーカスである。レグルドやアデラらはすでに見知っておろうがな。そっちの小僧たちは新顔だな? 三人しかおらん上にペットまで連れているようだが、仕事はちゃんとできるんだろうな。こっちは安くない金を払うんだ。大丈夫なんだろうな、んん?」
ぎろりと俺たちのほうを睨みつけてくる中年男。
風音と弓月が、わずかに緊張の色を見せたのが分かった。
その中年男──依頼人のマーカスさんに対して、アデラさんが声をかける。
「マーカスの旦那、少なくともそいつらのレベルは冒険者ギルドが確認しているはずさね。まだ若いけど25レベルには届いてるってことだろ?」
後半部は俺に視線が向けられた。
俺は「まあ、そうですね」と曖昧に答えておく。
限界突破について一応伏せておくのは、いつも通りだ。
力があるのだからと、変にこき使われてはかなわない。
依頼人マーカスは、「ふん」と不愉快そうに鼻を鳴らす。
「しゃしゃり出るなアデラ。そんなことは当然分かっておるわ。私はこの小僧たちに、大丈夫なのかと念押ししておるのだ。何しろ『アウルベアカーニバル』の時期なのだからな。半端な仕事をされて、不測の事態が起こってはかなわん」
出た、「アウルベアカーニバル」。
「アウルベア」というのはモンスター名だろうか。
モンスター図鑑を調べれば出てくるかもしれないが。
ともあれ俺は、こほんと一つ咳払いをして、依頼人に伝える。
「俺たちの実力に関しては、ご心配なく。少なくともAランク相当程度の仕事は、問題なくこなせますよ」
いかん、口が滑った。
「少なくとも」とか「程度」とか、余計なことを口走ってしまった。
だが依頼人のマーカスさんは、そこにツッコミを入れてくることはなく、代わりにこう言った。
「ふんっ、だといいがな。支払う報酬分の仕事はしてもらうぞ。ピクニック気分でいるなよ」
まあ、これだけなら至極真っ当な要求だな。
ちょっと感じは悪いが、別に悪い人間ではないのかもしれない。
さておき、最近Aランクのクエストやレイドクエスト程度ではちょっと気が緩むところがあったので、少し意識的に引き締めるとしようか。
正当な報酬をもらうんだから、仕事はちゃんとやらないとな。
その後いくつかのやり取りをした後、俺たちを含めた冒険者一行と商人マーカスの馬車は、都市レルトゥクを出立したのだった。
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