第341話 勝利の後

 ヤマタノオロチを倒した。

 俺たちはレベルがあがった。テレレレッテッテッテー。


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 ミッション『ヤマタノオロチを1体討伐する』を達成した!

 パーティ全員が250000ポイントの経験値を獲得!


 特別ミッション『ヤマタノオロチを討伐し、クシナ姫を救う』を達成した!

 パーティ全員が250000ポイントの経験値を獲得!


 六槍大地が54レベルにレベルアップ!

 小太刀風音が54レベルにレベルアップ!

 弓月火垂が55レベルにレベルアップ!


 現在の経験値

 六槍大地……2515904/2588024(次のレベルまで:72120)

 小太刀風音……2391536/2588024(次のレベルまで:196488)

 弓月火垂……2744651/2848853(次のレベルまで:104202)


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 俺が2レベルアップ、風音と弓月は一気に3レベルアップだ。

 クラーケンを倒したときに匹敵するか、それ以上の莫大な獲得経験値。

 大ボスを倒したって感じがするな。


「よかった~、生きてるよ~!」

「せんぱぁい、怖かったっす~!」


 駆け寄ってきた風音が俺に飛びついてきたかと思うと、さらに、猛ダッシュしてきた弓月までがダイビングアタックを仕掛けてきた。

 さすがに支えきれず、三人もつれ合って草原の地面に倒れる。


 仰向けに押し倒された俺と、それに覆いかぶさる形の風音と弓月。

 二人は涙を流しながら、俺を手放すまいとするように強く抱き着いてきていた。


 草の匂いを感じながら、両腕で二人を抱きしめる。

 ああ本当に、今回も乗り切れてよかった。

 毎回毎回、自分たちの命が一番大事だと言いながら、まあまあの無茶をするよな俺たちも。


 経験値のためだけだったら、ここまでのリスクは取らないかもしれない。

 それでも命懸けのミッションに挑むのは、ほかにも守りたいものがあるからだ。


 その守りたかったものが、俺の従魔に乗って上空から降りてきた。

 俺は風音、弓月とともに身を起こし、その様子を見守る。


 グリフが地上に降り立つと、紅白の巫女衣装を着たクシノスケがグリフの背から飛び降りた。

 そこに駆け寄る一人の武士モノノフの姿。


「姫様!」

「うわっ……! み、ミコト……!?」


 ミコトさんが、クシノスケを強く抱きしめていた。

 ミコトさんが涙を流して嗚咽し、それに釣られてかクシノスケもまた涙を見せる。


 クシノスケが「い、痛いってばミコト」と言うと、ミコトさんははたと気付いた様子でクシノスケを解放する。


 クシノスケは涙を拭うと、毅然とした顔でミコトさんに言う。


「ミコト、皆の安否の確認を」

「はっ……そ、そうでした。私としたことが」


 戦闘後の状況をあらためて確認すると、立って動けるのは俺のほか風音、弓月、ミコトさん、クシノスケ、それにグリフだけだった。

 回復役を担っていた右翼・左翼の武士モノノフたちは、全員が焼け焦げて倒れ伏している。


 でも息があるかを確認すると、全員が「戦闘不能」状態だった。

 つまりいずれも「死亡」状態には到達しておらず、生きているということだ。


 俺は範囲回復魔法【エリアアースヒール】を連続使用して、武士たちの火傷が完全に癒えるまで治癒を施した。

 これでHPは全快したはずだが、自然に意識を取り戻すのはだいぶ先になるだろう。


 俺が回復を担当する一方で、風音は宝箱に取りかかっていた。

 ボス敵から宝箱が出てきたのは、初めてかもしれない。


 俺がひと通りの治癒を終えた頃、風音が一振りの剣を持ってやってきた。

 宝箱は消滅しているので、その中に入っていた宝物だろう。


 見事な和風の装飾が施された、いかにも力のありそうな剣だった。

 剣といっても、長さはやや短めだ。剣と短剣との中間ぐらいの長さ。


「火垂ちゃんに鑑定してもらったら『天叢雲剣あめのむらくものつるぎ』っていう名前の武器だって。剣、短剣、刀の三つの種別を持ってて、どの種類の武器としても使えるみたい」


「へぇー、じゃあ風音も使えるのか。強さは?」


「かなり強いっすよ。攻撃力+50、特殊効果は魔法威力+5っす」


 一緒に来た弓月から性能説明を聞いて、俺は唸る。


 風音が今使っている弱い方の短剣「ルーンクリス」が攻撃力+25、魔法威力+2という性能だったはずなので、これが手に入れば相当な戦力アップが期待できる。


 まあ俺の「海神ウォルニスの槍」と比べると、さすがに見劣りするけどな。

 それをぼそりとつぶやくと、「先輩の槍は規格外すぎるっすからね」と弓月が相槌。


 すると後輩、一瞬の後に顔を真っ赤にして「そ、そういう意味じゃないっすよ」と手をわたわたと振ってきた。

 どういう意味だよ。


 ともあれ問題は、これを俺たちが受け取っていいかどうかだ。


 ミコトさんやクシノスケに聞くと、ヤマタノオロチが出した宝物の扱いについては、城に戻って将軍の判断を仰ぎたいとのこと。

 俺たちだけで倒したわけでもないし、宝物の所有権を協議で決めるのは妥当なところだろう。


 なおミコトさんは、俺たちがこれをほしい旨を伝えると、自分にできる限りを尽くして将軍に掛け合うことを約束してくれた。


 その後、弓月の【リザレクション】によって倒れた武士モノノフたちの半数を復活させ、俺たちは帰路についた。

 残る半数は、復活した武士モノノフたちが担いで帰る形だったが、彼らもやがて目を覚まして自分の足で帰還の途につく。


 オーエドの都へと帰り着いたのは、夕刻頃のことだった。


 城に帰ってきたクシノスケを見るなり、将軍はすぐさま駆け寄って、涙ながらに娘を抱きしめた。

 クシノスケもまた、最初は困ったような様子を見せていたが、すぐに自らも涙を流して将軍を抱き返した。


 まったく、みんな泣き虫だな。

 俺も少しもらい泣きしてしまったけど、これは仕方のないことだ。うむ。


 ヤマタノオロチ討伐の報が伝わると、オーエド城の城中にいた人々は歓喜し、喝采した。

 そして将軍の命で、直ちに宴の準備が開始された。


 なお「天叢雲剣」は、驚くほどあっさりと、俺たちのものとして良いとする許可が下りた。

 もともと約束されていた高額の褒美も、当然のごとく支払われることとなった。


 その後、風呂を勧められたので、お言葉に甘えて身を綺麗にし、温まることにした。


 俺は城の武士モノノフたちと、銭湯のように広い城中の風呂場で裸の付き合いをすることになった。

 若者から重鎮までいて、ヤマタノオロチ戦での活躍をさんざん褒めそやされ、俺は大変に恐縮することになった。

 小型化状態のグリフは、手桶に入れた湯に浸かって満足そうにしていた。


 なお後で風音や弓月から聞いた話では、女湯は女湯で、なかなか大変なことになっていたらしい。

 ミコトさんが女色家らしく、風呂場ではクシノスケがさんざん弄ばれていたとのこと。


 ミコトさんは一緒に入った風音と弓月にも「二人とも、きれいな肌をしているな」と言って目を光らせたので、二人は全力で首を横に振ったらしい。

 その際にクシノスケが「ミコトの嘘つき。何が『姫様だから愛おしい』だよ」と拗ねたような口調で言っていたのが印象的だったという。


 風呂を出ると、借り物の浴衣を着て、客室でゆっくりする。

 しばらくすると宴会場へと来るよう言われたので、案内役の使用人についていった。



 ***



(作者より)

 近況ノートで書籍版4巻のパッケージイラストを公開しました(7/18)

 https://kakuyomu.jp/users/ikapon/news/16818093081296630421

 今回もまた本当に素晴らしいので是非見てください。

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