第330話 極東の都

 東の果ての国ヤマタイの首都、東の果ての都オーエド。

 東側が海に面した沿岸都市で、都市部だけでも万を超える人口を擁する、この世界ではなかなかの規模の大都市だ。


「いよぉし、着いたぞ。『大地の槍』の諸君、ここまでの護衛、ご苦労だった。助かったぜ」


 街の入り口の門をくぐると、狼牙族の商人ヴォルフさんがそう言って、約束の依頼報酬を渡してくれた。


 ここまでで護衛任務は終了、解散の運びとなった。

 ヴォルフさんは下働きの人たちとともに、十頭を超えるラクダを連れて、城下町の中央通りを進んでいった。


 門前に残されたのは、いつもの面子──俺、風音、弓月、グリフの三人と一体だ。


 頃は夕刻。

 絵画を思わせる幻想的な夕焼け空の下、時代劇に登場するような出で立ちの人々で、城下町は大いににぎわっている。


 ミッション達成の通知も、ピコンッと現れていた。


───────────────────────


 ミッション『極東の都に到達する』を達成した!

 パーティ全員が70000ポイントの経験値を獲得!


 ミッション『Aランククエストを3回クリアする』を達成した!

 パーティ全員が30000ポイントの経験値を獲得!


 新規ミッション『アイスキャッスルに到達する』(獲得経験値100000)が発生!


 新規ミッション『Aランククエストを6回クリアする』(獲得経験値60000)が発生!

 


 六槍大地が52レベルにレベルアップ!

 弓月火垂が52レベルにレベルアップ!


 現在の経験値

 六槍大地……2015904/2129196(次のレベルまで:113292)

 小太刀風音……1891536/1927788(次のレベルまで:36252)

 弓月火垂……1994651/2129196(次のレベルまで:134545)


───────────────────────


 目的のミッションを達成して、みんな長旅ご苦労様といったところだ。


 港町バーレンを出立して、十日ほど旅を続けてきての目標達成。

 元の世界への帰還までは、あと62日だ。


 ちなみに前回の特別ミッション達成で風音も51レベルに到達し、新規に修得可能となったスキルをいくつか修得して、大幅な成長を遂げていた。



小太刀風音

レベル:51(+7)

経験値:1791536/1927788

HP :324/324(+68)

MP :288/288(+64)

筋力 :36(+4)

耐久力:36(+4)

敏捷力:60(+7)

魔力 :36(+4)

スキル

【短剣攻撃力アップ(+40)】(Rank up!×2)

【マッピング】

【二刀流】

【気配察知】

【トラップ探知】

【トラップ解除】

【ウィンドスラッシュ】

【アイテムボックス】

【HPアップ(耐久力×9)】(Rank up!)

【宝箱ドロップ率2倍】

【クイックネス】

【ウィンドストーム】

【MPアップ(魔力×8)】(Rank up!)

【二刀流強化】

【回避強化】

【隠密】

【トラップ探知Ⅱ】

【二刀流強化Ⅱ】

【ゲイルスラッシュ】

【レビテーション】

【必殺攻撃】(new!)

【フライト】(new!)

【トルネードエッジ】(new!)

残りスキルポイント:0



 ステータス成長等の比較対象は、海底都市でサハギンと戯れていたときだ。


 何やら物騒なスキルが増えていて、一層の暗殺者ぶりを感じさせるが、それを口にすると身の危険を感じるので黙っていようと思う。


 それはさておき、ここからどうするか。


 このヤマタイの国にも、小規模ながら冒険者ギルドらしきものがあるらしいし、ひとまずそっちに寄ってみようか。

 と、思っていたら──


「先輩~、うち腹減ったっすよ~。久しぶりに蕎麦とか食いたいっす。天ぷら蕎麦とか」


「鰻の蒲焼と熱燗で、きゅーっていうのもいいよね」


 うちの嫁たちから夕食の要望が出た。


 言われてみれば、昼食は前の村で購入したおにぎり等で軽めに取っただけ。

 俺もそろそろ空腹を感じていたところだ。


 ちなみにこのヤマタイの国の町や村では、わりと和食らしきものにありつけるので、日本人としてはとても嬉しい。


 蕎麦や天ぷらや鰻のほかに、寿司や煮物、団子に緑茶、日本酒などなどだ。

 さすがにカレーとかラーメンとか、そういうのはないが。


「分かった。少し早いけど夕飯にするか。どこかその辺の店にでも入ろう」


「クピッ、クピィーッ♪」


 そんなわけで、弓月の帽子の上で嬉しそうに羽ばたくグリフをなでつつ、ぶらぶらと通りを歩いて夕食の場を探すことしばらく。


 やがていい感じの蕎麦と天ぷらのお店を見つけたので、その店の暖簾をくぐることにした。

 残念ながら鰻はまた今度だ。


 店に入ってテーブル席を一つ占拠し、店の壁にかかっている木札のお品書きを見て、食事を注文する。

 お金はたっぷりあるので、特上の天ぷら蕎麦や天丼など、各自が食べたいものをじゃんじゃん頼んだ。


 もちろん風音は、当然のように熱燗を注文。

 それを見た俺は、今日はもう、あとは宿を探して終了だろうなと悟った。


 あれこれと他愛のない話をしながら待っていると、やがて注文した料理やお酒が次々と運ばれてきた。


 テーブルがいっぱいになるほどの料理が並び、全員でいただきますの挨拶をして食事に取りかかる。


 特上天丼うめぇ……。

 サクサクの衣に包まれたぷりっぷりの海老や、ホクホクの白身魚、やや癖のある山菜などが、甘辛いタレと熱々のご飯に絡みあって絶妙のハーモニーをうんちゃらかんちゃら。


 いや、とにかくうまい。泣きそうなぐらい。

 やっぱ日本人は和食だよな……。


 風音も熱燗をすすって頬を赤らめ、ご満悦の様子。


 弓月は一人で二人前を注文した特上天ぷらそばを、事あるごとに「うまいっす!」と言いながらもりもりと食べ進めていた。

 そんな量を頼んで食えるのかと思ったが、わりと普通に完食しそうだな。


 ちなみにグリフは、天ぷらの盛り合わせをハフハフ言いながら貪っていた。

 熱いから気を付けろよ、などと思うものの、従魔モンスターがそんなことで火傷をするのかどうかは不明である。


 そんな調子で俺たちが、幸せな夕食をとっていたときのことだ。

 新たに三人の男が店の暖簾をくぐってきて、近くにあったテーブルの一つを占拠した。


 男たちは常連なのか、お品書きも見ずに手早く注文を済ませる。

 それからこんな話を始めた。


「ところで聞いたかよお前ら。八人目の『巫女』が誰かって話」


「いやお前、今さら何言ってんだ。若様だろ。んなこと今どき、子供でも知ってるぜ」


「えっ、マジで。俺ぁ今日、初めて聞いてびっくりしたぜ」


「おいおい、二人とも待ってくれよ。ヤマタノオロチに捧げられる『巫女』ってなぁ、歳の若い娘じゃねぇとダメだって聞いたぜ。若様はそもそも男だろうがよ」


 そこで俺は、反応せざるを得なかった。


 ヤマタノオロチ──そのモンスター名は、ミッションにあったはずだ。

 ミッション「ヤマタノオロチを1体討伐する」、獲得経験値25万ポイント。


 ちなみに海底都市の人魚絡みで戦ったクラーケンが、獲得経験値20万ポイントの討伐ミッションだった。

 俺たちが戦ったあれは、封印からの解放が不十分な不完全体だったのだが。


 風音と弓月も目を丸くして、俺のほうを見てくる。

 弓月は口にくわえたままだった蕎麦の残りを、じゅるるっとすする。ちょっとはしたない。


 そんな俺たちの反応など知らず、男たちの話は続いていく。


「お前はそこからか。若様は女だよ。男のように育てられてきたってだけで本当は姫様なの。そんなの今どき赤ん坊だって知ってらぁ」


「うっそ。マジかよ。道理で綺麗な顔してると思ったぜ」


「にしても若様……姫様か? 可哀想だよな。あの若い身空で、怪物の生贄になるなんてよ」


「でも姫様だけでもねぇからな。これまでにも七人の若い娘が『巫女』として捧げられてきているんだ。平民の家からしか『巫女』が出ないよりは平等ってもんだろ」


「まあなぁ。正直、うちの娘じゃなくて良かったって思っちまったのはあるわ。若様には気の毒だが、それも仕方のねぇことだ」


 そうした男たちの会話の間にも、俺の頭の中ではいくつもの単語が浮き上がり、それらがパズルのピースのように合わさっていく。


 ヤマタノオロチ、巫女、生贄、若様──


 すべてのピースが頭の中でバチッと嵌ったとき、俺の背筋にぞくりと寒気が走った。

 脳裏に浮かんだのは、つい先日に出会った少女の姿だ。


「ちょっ、先輩……!?」


 驚く弓月の声。

 気が付いたときには、俺は席から立ち上がっていた。


 俺は半ば夢遊病のようにして、三人の男たちがいるテーブルのほうへと向かっていく。


 二日前のあの晩には、本人が言いたくないなら聞く必要はないと考えた。

 でも今はもう、そうは思えなくなっていた。


 何事かと訝しむ男たちの前まで行って、俺はこう口にしていた。


「今の話、もっと詳しく聞かせてくれませんか。知りたいんです、何が起こっているのかを」

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