第324話 戦闘

「こやつらは狼藉者だ! 斬れ、斬り捨てい!」


 エチゴヤが子飼いの用心棒たちに指示を出すと、男たちは一斉に刀を抜き放つ。


 だが彼らは、すぐに斬りかかってはこなかった。


 男たちのうちの一人──見覚えのある人さらいの男が、抜き身の刀を肩に担ぎ、へらへらと笑って主人に言葉を返す。


「旦那、斬るっつってもよ、女は殺しちまっちゃあ勿体ねぇ。槍の野郎はともかく、ほかの三人はHPを0にして気絶させるだけで、生け捕りにするってことでどうです? どの女も別嬪だ、楽しめますぜ」


 それに応じたのは、エチゴヤではなく代官だった。


「うむ。エチゴヤよ、かの者の言うとおりだ。狼藉者とはいえ、いずれも上玉。生かしたまま捕らえ、たっぷりと仕置きをするのが上策であろう」


「そ、そうですな。お代官様のおっしゃる通りで。──お前たち、分かったな。槍の小僧以外は殺すなよ」


 エチゴヤの指示に、用心棒の男たちがニヤニヤ笑いで了解の返事を返す。

 まったく、男ってやつはどいつもこいつもだ。


 一方で俺は、先ほど助けた娘にちらと視線を向けてから、クシノスケに声をかける。


「クシノスケ、その娘を頼む」


「えっ……? いや、この娘を守らなければならないのは分かるが、それでは私が攻め手に回れない。ただでさえこちらが不利なのに。三対七になってしまうぞ」


「ああ、それでいい」


「???」


「七人ぐらいなら、俺と風音と弓月、三人で十分だってことだよ。とにかくその娘は頼んだぞ」


「わ、分かったが……え、えぇ……???」


 困惑するクシノスケはひとまず無視して、次は風音に声をかける。


「風音、三人頼んでいいか」


「いいけど、フル装備の私が四人受け持った方がよくない?」


「代官の動き次第だな。そのあたりは状況を見て臨機応変で。どうとでもなるだろ」


「ま、そうだね」


「弓月は後方から適当に援護を頼む」


「承知っすよ」


 指示出しがひと通り済んだ。

 俺は三人の用心棒を誘導するように、ゆっくりと横に移動する。


 風音もまた、別の三人を受け持つ動きで、俺と逆方向に横移動した。


 そんな俺たちの動きを見て、用心棒たちが鼻で笑う。


「はっ、何を勘違いしてやがるか分からねぇが。勝てるつもりでいるのかよ」


「現実は剣豪ごっこじゃねぇってことを教えてやらあ!」


 対峙していた用心棒の一人が、俺に向かって駆け寄り、斬りかかってきた。

 また別の二人も、最初の一人よりやや遅れて時間差で向かってくる。


 風音のほうにも三人、別の用心棒たちが攻撃を仕掛けるのを、横目に確認する。

 代官は今のところ、後方で様子見のようだ。


 全体状況はざっと把握終了。

 俺は、自分の担当の三人の用心棒に集中することにした。


 駆け寄ってくる三人の用心棒たち。

 その動きは俺の目に、半ばスローモーションのように映る。


 神槍を手に、最初に仕掛けてくる一人に攻撃を仕掛ける。


【三連衝】を使うかどうか迷ったが、殺してしまう可能性が大きいと思ったのでやめる。

 通常攻撃で、一撃で沈められるかは怪しいが──


「はっ!」


「ぐはっ……! なんだ、この威力……くっそぉ!」


 神槍が、男の腹部を深々と貫く。

 だがやはり一撃では倒せなかった。


 刀による反撃が来るが、それは盾を使っての受け流しに成功。

 そこに別の二人が斬りかかってくる。


「このガキ!」

「くたばりやがれ!」


 左右から来る斬撃。

 左のほうは、自分でも驚くほどの速さでどうにか身を捻り、回避に成功する。

【回避強化】のスキルが活きた感じだ。


 しかし右から来た一撃は、さすがに回避しきれず。

 肩口に斬撃を受けてしまった。


 今はガイアアーマーやガイアヘルムを身につけていないため、いつもより防御力が低い。

 ダメージが通らない、というわけにもいかなかったが──


「なっ、浅い……!?」


 戸惑いの声をあげたのは、俺に一撃を浴びせることに成功した用心棒のほうだった。


 攻撃は確かに俺を捉えていたが、【耐久力】由来の生身の防御力とHPの高さ、それに神槍による加護もあって、深手には到底至らなかった。

 十回も斬りつけられたらさすがに危ないかな、といった程度のものだ。


「先輩……っ! よくも先輩をやったっすね──【トライファイア】!」


 背後から弓月の声が聞こえてくると同時、小火球が用心棒たちに襲い掛かった。


「「「ぐわぁあああっ!」」」


 三人の用心棒に、それぞれ一つずつの小火球が直撃する。

 うち一人が、意識を失って崩れ落ちた。

 俺が最初に攻撃した男だ。


「いい援護だ、弓月。でも敵討ちのように言うな。大したダメージは──受けてない!」


「がはっ……!」


 俺は残る二人の用心棒のうち、右側の相手に攻撃を仕掛ける。

 最初の一人と同様、腹部を深々と貫くと、そいつも白目をむいて倒れ込んだ。


 これで俺と対峙する相手は、残り一人になった。


「そこはそれっす。盛り上がりは大事っすよ」


「そうかい。こっちはもう大丈夫だ、あとは風音の援護を頼む」


「言われなくても、そのつもりっす」


「クソッ、舐めやがって……! どうなってやがる!」


 残る一人の用心棒が攻撃を仕掛けてくるが、俺はそれに対し、盾での受け流しに成功。

 態勢を崩したそいつに、神槍の一撃をお見舞いする。


「ぐあっ……バ、バカな……」


 三人目も倒れた。

 俺は狸寝入りがいないことを確認してから、全体の戦況を再確認する。


「──やあっ!」

「ぐわぁああああっ!」


 ちょうどそのとき、風音の短剣二刀流が、彼女の前にいた用心棒の一人を打ち倒した。

 見ればそれとは別に、一人がすでに倒れ伏している。


「な、なんなんだ、この女の強さは──くっそぉ!」


 残る一人が風音に斬りかかるが、黒装束姿の相棒は攻撃直後にもかかわらず、素早く後ろに跳んで攻撃を回避。


 そこに──


「なぁんだ、援護の必要なかったっすね。でも折角っすから──【フレイムランス】!」


「──ぐぁあああああっ!」


 弓月が放った炎の槍が襲い掛かり、用心棒はその身を炎上させて倒れた。


 六人の用心棒は、これで全員を撃破だ。

 背後からは、クシノスケの驚く声が聞こえてくる。


「す、すごい……。手練れの武士モノノフ六人を、たった三人であっという間に……!? どうして──まさか、限界突破!? 三人とも!?」


 はい、正解。

 ま、これだけやってみせれば、さすがにその可能性に行き着くよな。


「さてと──」


 俺は神槍を手に、エチゴヤと代官がいるほうへと歩いていった。

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