第161話 事件発生
翌朝。
元の世界への帰還まで、あと91日。
俺たちが冒険者ギルドに向かうと、ギルドの前で三人のムキムキ男たちが待ち受けていた。
エスリンさんの従者たちだ。
大の男たちが、どこかおろおろとした様子だったが、彼らは俺たちの姿を見つけると慌てて駆け寄ってきた。
「だ、ダイチの兄貴! 姐さんが見当たらないんです!」
ムキムキ従者の一人がそう言って、俺の肩をつかんでがくがくと揺さぶってくる。
ていうか、兄貴?
いきなりのことに何が何やら分からない俺は、とりあえず男を引っぺがして話を聞くことにした。
「待ってください。話が分からないので、順を追って説明してもらえますか。エスリンさんに何かあったんですか?」
すると男たちは口々に、起こった出来事を話し始めた。
「昨日の夜のことなんですがね。酒場で一緒に飲んでいたら、姐さんが『ちょっと夜風に当たってくるわ』って言って出ていって、それから戻ってこなくて」
「俺たち探したんですけど、どこにも見当たらねぇんです」
「でも、これ──姐さんのメガネが、路地裏に落ちていて」
そう言って男の一人が出したのは、確かにエスリンさんがかけていたメガネだった。
男たちはさらに続ける。
「きっと何かの事件に巻き込まれたに違いねぇって憲兵に言いにいったんだが、やつら人探しは自分たちの仕事じゃねぇ、冒険者にでも依頼しろとか言いやがる」
「あいつら職務怠慢だろ! 税金泥棒どもめ!」
話が憲兵──俺たちの世界で言うところの、交番の駐在さんのようなもの──への不満に向かい始めたので、俺は彼らをなだめつつ、話をまとめる。
「つまり、エスリンさんが昨日の夜に失踪した。状況を見るに、何者かに誘拐された可能性がある──ってことですか?」
俺がそう聞くと、男たちは三人揃って、我が意を得たりとばかりにぶんぶんと首を縦に振った。
はあ……なんというか、寝耳に水の話だ。
クエストの依頼人が突然、行方不明になってしまった。
そして、ここでピコンッと音がして、メッセージボードが開いた。
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特別ミッション『失踪した女商人エスリンを見つけ出す』が発生!
ミッション達成時の獲得経験値……15000ポイント
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うん、間違いなく事件のようですね。
あと獲得経験値がわりと高いな。
意外と難易度が高いミッションなのだろうか。
いずれにせよ、放っておくわけにはいかないよな。
ちなみに風音さんと弓月のほうを見ると、二人は俺に向かってうなずいてきた。
ですよね。
「分かりました。俺たちもエスリンさんを探すのに協力します。依頼人がいないと、クエスト報酬を支払う人もいなくなってしまうので」
「ありがてぇ!」
「さすがダイチの兄貴!」
「頼りになるぜ!」
喝采の声をあげるムキムキ男たち。
なんとなくだけど、この三人は人探しの戦力としても、あまりあてにできそうにないなという気がしていた。
こいつら肉体労働以外は、わりと全面的にダメそうな予感がするぞ。
ともあれそんなわけで、失踪した女商人エスリンさんを探すことになった俺たちだったが──
「でも人探しとか、どうやればいいんすかね?」
弓月が根本的な疑問を口にした。
それなんだよな。
「うーん、やっぱり『聞き込み』とかになるのかな?」
「そういうことになるんですかね。刑事ドラマや探偵モノだと、現場百回とか聞きますけど」
首を傾げる風音さんに、俺も曖昧な返事をする。
正直に言って、人探しのやり方なんてエンタメ作品から仕入れた知識しかないぞ。
「あとは『怪しい人物』に当たってみるとか──あっ」
自分でそう言ったところで、俺はある人物のことを思い浮かべていた。
昨日の朝、グリフォン山に向かう前に、エスリンさんに絡んできたやつがいたよな。
風音さんと弓月、それにエスリンさんの従者たちも、同じところに行きついたようだ。
そしていきり立ったのは、その三人のムキムキ従者たちだった。
「そうか、ゴルドーのやつの仕業だな!」
「あんのヤロウ! 姐さんに相手にされないからって、ついに一線を越えやがったか!」
「今すぐヤロウの屋敷に行ってぶっ飛ばしてやる!」
「待て待て待て待て!」
暴走しようとするムキムキ男たちを、俺は首根っこ引っつかんでおとなしくさせた。
彼らは肉体派に見えても一般人なので、32レベル
「何で止めるんですか、ダイチの兄貴!」
「そうですよ兄貴! 今すぐ殴り込んで、姐さんの居場所を吐かせやしょうぜ!」
「あんのヤロウ、ボコボコのグチャグチャにしてやんよ!」
「だから待てって……じゃなかった、待ってください。まだあのゴルドーという商人が犯人だと決まったわけじゃありません。それに仮に彼が犯人だったとしても、殴り込みなんてしたら俺たちのほうが犯罪者にされかねないですよ」
「そ、そうか」
「なんてことだ」
「危ないところだったぜ。さすがダイチの兄貴だ」
ひとまず三人は納得してくれたようだ。
……ていうかこの三人、俺より年上に見えるんだけど、いろいろ大丈夫か?
エスリンさんの普段の苦労が
だがそれはそれとして、どうするか。
この三人は頭脳面では使いものにならなさそうだし、俺たちが考えるしかないだろうが。
といっても、それこそ現場で地道に聞き込みをするぐらいしか思いつかない。
あとはゴルドーの屋敷や商館を、こっそり見張るぐらいだろうか。
でも刑事ドラマと違って、俺たちは警察組織じゃないから、人海戦術みたいな手段は使えないし──
「あっ」
そこで俺は、一つの重要な気付きにたどり着いた。
声をあげた俺を、風音さんが不思議そうに見つめてくる。
「どうしたの、大地くん。何か思いついた?」
「いえ。俺たちには一つ、この街での有力な『コネ』があったなと思い出しまして」
「コネ? ──あっ、そういうことか」
「なるほどっす。やっぱ先輩、こっちに来てから冴えてるっすね」
風音さんと弓月も、そこに思い至ったようだ。
俺たちは早速、その「コネ」と呼べる人物の住居へと向かった。
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