第160話 長期のお仕事

「ドワーフ大集落ダグマハル、ですか」


「うん。途中にオーガが束で出てきたり、ミノタウロスが出没する一帯があったりするから、クエスト難易度はイレギュラーも加味してAランクで考えてるんやけど。あんたらの実力ならいけるやろ?」


「オーガは前に戦ったからいいとして、ミノタウロスの強さは──ん、このステータスだと、グリフォンとワイバーンの中間ぐらいの強さっぽいすね。全然いけるっすよ先輩」


 モンスター図鑑をぺらぺらとめくった弓月が、そう伝えてくる。

 それなら多少のイレギュラーの可能性を考慮に入れても、問題はなさそうだな。


 ドワーフ大集落ダグマハル。


 地点到達で獲得経験値20000ポイントのミッションがあるのだが、距離が遠いので後回しにしていた。


 ほかに何事もなく行くのは厳しいので、何かもう一声と思っていたのだが──


───────────────────────


 特別ミッション『女商人エスリンを護衛してドワーフ大集落ダグマハルまで鉱石を運ぶ』が発生!


 ミッション達成時の獲得経験値……25000ポイント


───────────────────────


 出た、特別ミッション。

 獲得経験値もかなり大きい。


 しかも今の話だと「オーガを3体討伐する」(経験値5000)と「ミノタウロスを1体討伐する」(経験値8000)も高確率で期待できそうだ。


 さらに地図によれば、ドワーフ大集落ダグマハルへの経路の途中に、人口1万人以上の大都市が存在している。

 そこも踏んでいけると考えれば「人口1万人以上の街に到達する」(経験値3000)の達成も見込めることになる。


 ただ、仮にそこまで全部クリアできたとして、合計61000ポイントか。


 純粋なポイント数だけ見ると間違いなく大きいのだが、到達に一週間ほどかかると考えると、少し微妙な気もしてくる。


 でも「じゃあ断るか?」と考えると、これだけの好条件を蹴飛ばすのは、それはそれでもったいない。


 ちなみにだが、ドワーフ大集落に向かうということは、実は「世界樹」に近付くことにもなる。

 地図によると、ドワーフ大集落までが六日から七日ほどかかって、そこから二日ほどで世界樹に到達できるようだ。


 ミッション「世界樹に到達する」(獲得経験値30000)。

 これも視野に入れると、どうか。


 うーん……ここまででも悪くはないのだが、何かもう一声あると嬉しいところだな。

 試しにこれ、提案してみるか。


「エスリンさん、その依頼、引き受けるかどうか迷っているんですけど。一つ相談があります」


「相談? っていうと報酬の値上げか。けどうちとしても、このあたりがギリギリの──」


「いえ、そうではなく。この依頼、冒険者ギルドで『Aランクのクエストとして』俺たちを指名して出してもらうことはできませんか?」


 冒険者ギルドには「指名」という制度がある。

 依頼人が特定の冒険者、あるいは冒険者パーティを指定して、クエスト依頼を出すのである。


 特定の冒険者のことを気に入った依頼人が、また同じ冒険者に仕事を頼みたいときに利用するシステムのようだが。


「ん……? ああ、うちのことまだ手放しでは信用できんってことか。けどそれやと報酬が、いま提示した額よりは減ってしまうんよ。ギルドに手数料二割取られるから」


「ええ、それで構いません」


「んー、そっかー。それで引き受けてもらえるなら、うん、分かったわ」


 交渉成立。

 エスリンさんが少しだけしょんぼりしているように見えたが、背に腹は代えられない。


 俺たちは明朝にまた合流する約束をしてから、エスリンさんたちと別れた。

 俺、風音さん、弓月の三人になった俺たちは、自分たちの宿へと向かう。


「さすが大地くんだね。『Aランククエストを1回クリアする』の経験値15000も一緒に取っちゃえってことでしょ?」


「ええ。一週間かけたミッションで61000ポイントは、ものすごく悪くはないんですけど、できればもう一声欲しいところでしたから」


「マッチポンプ感がすごいっすね。そういうズルしたら経験値もらえないとかないっすよね?」


「いやぁ、どうだろうな。だとしたらすまんだが」


「んー、でもそれもそれで、実験としてありなんじゃないかな」


 そんなわけで俺たちはその日、宿に戻ってゆっくりと休んだ。

 そして翌朝になるのだが──


 この日の夜中。

 俺たちが知らないところで、一つの事件が起こっていたのである。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る