第159話 帰還
山道を下り、街の近くまで戻ってきた頃には、あたりはすっかり夜闇に包まれていた。
一行の様相は、街を出立したときとは少し変わっている。
出発時に空だった台車には、今は採掘した鉱石がいっぱいに積まれている。
加えて、総勢七人だったメンバーは、現在は七人と一匹だ。
その「一匹」とはもちろん、俺が【テイム】したグリフォンである。
「グリちゃん、もふもふだよ~」
「もふもふっす~」
グリフォンには現在、風音さんと弓月がまたがっている。
二人は思いのほかふわふわなグリフォンの毛並みに酔いしれ、飽きることなく抱きついて頬ずりしていた。
「ほら、風音さんも弓月も、そろそろ街につくから降りてください」
「「はぁーい」」
俺が催促すると、二人の女子は親に言いつけられた子供のように、不承不承グリフォンから降りる。
「ところで先輩、このグリフォンって街の中に入れてもらえるっすかね?」
「このままだと難しいだろうな。でも【テイム】にはもう一つ、応用技があるんだ」
「応用技っすか?」
「ああ。──【テイム】」
俺はすでに【テイム】済みのグリフォンに向かって、もう一度【テイム】を行使する。
俺の手から放たれた光球がグリフォンに命中すると、その姿がぐぐぐっと縮んだ。
やがてグリフォンは、チワワのような小型犬と同じぐらいのサイズまで小さくなった。
心なしか、容姿そのものも愛らしくなっている気がする。
「クピッ、クピッ!」
懐くような鳴き声を向けてくるそいつを、俺は両手で持って抱いてやる。
小型化したグリフォンは、俺がなでてやると、心地よさそうに目を細めてもう一度「クピッ」と鳴いた。
「「か、かわいぃいいいいいいっ!」」
黄色い声をあげる女子二人。
抱きたそうにしていたので順番に渡して抱かせてやると、風音さんも弓月も至福の表情を見せた。
「大地くん、このスキルは革命だよ! どうして大地くんにしか授けられないの!?」
「そーっすよ先輩! こんなスキルを独り占めなんて、絶対おかしいっすよ!」
「いや、そんなこと俺に言われてもな」
苦情は神様にでも言ってくれ。
なお、この小型化したグリフォンにもう一回【テイム】を使うと、元の大きさに戻すことができる。
いちいちMPを20点も消費するのがやや難点だが、それだけの価値はあると思う。
ちなみに、ミニグリフォンをしばらく風音さんと弓月に抱かせていたら、親から離された赤ん坊のように居心地が悪そうにし始めた。
返してもらって俺が抱くと、ミニグリフォンはすり寄ってきて、気持ちよさそうな素振りを見せる。
もふもふの良さはあまり分からないが、これがかわいいのは少し分かるな。
「ううっ……大地くんばっかりずるい……」
「うちは複雑な気分っす。グリちゃんを抱きたい気持ちと、先輩に抱かれているグリちゃんが羨ましい気持ちとがぐちゃぐちゃになってるっす」
「火垂ちゃん、それ分かる! 大地くんもずるいし、グリちゃんもずるい」
うちの女子二名は、なんだかよく分からない妬み意識を持ち始めたようだ。
大丈夫かな、この二人。
やがて俺たちは街の前に到着した。
門限すれすれの時間に市門をくぐる。
グリフォンを通してもらえるかどうかは、小型化しても少し不安だった。
でも俺が胸に抱いてしれっと通ろうとしたところ、門番から「む、ペットか。通ってよし!」と言われてすんなり通行許可が下りた。
チェックが緩すぎて逆に心配になるぐらいだが、今の俺たちにとっては都合がいいので気にしないことにする。
そんなわけで、街に戻ってきた俺たち。
先頭を歩いていたエスリンさんが振り返って、にぱっと笑顔を向けてくる。
「いやー、冒険者さんたち、今回はホント助かったわ。これ、約束の報酬な。クエスト報酬の金貨80枚に、採掘を手伝ってくれた分の金貨3枚、合わせて83枚入ってるはずやから確認してな」
エスリンさんから巾着袋を渡される。
中には黄金色の貨幣がじゃらじゃらと詰まっていた。
確認すると、確かに83枚。
そしてピコンッと音がして、ミッション達成のメッセージボードが表示された。
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ミッション『Bランククエストを1回クリアする』を達成した!
パーティ全員が8000ポイントの経験値を獲得!
新規ミッション『Aランククエストを1回クリアする』(経験値15000)を獲得!
現在の経験値
六槍大地……230444/235435(次のレベルまで:4991)
小太刀風音……246056/267563(次のレベルまで:21507)
弓月火垂……253441/267563(次のレベルまで:14122)
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今回も順当にミッションをクリアすることができた。
今日はもう宿をとって、ゆっくり休むだけだ。
と、思っていたのだが。
そこでエスリンさんから、追加の提案が来た。
「あのな、もしあんたたちが良ければ、追加でお願いしたい依頼があるんよ」
「追加依頼ですか? 内容次第ですけど」
俺が話を聞く姿勢を見せると、エスリンさんは次の依頼内容をこう説明した。
「ちょい長丁場の仕事なんやけどな。このグリフォン山で採掘してきた鉱石を、ドワーフ大集落ダグマハルまで運びたいんよ。それであんたらに、そこまでの護衛を頼みたいと思ってな。もともとAランククエストとして依頼するつもりだったものだし、拘束一週間ぐらいになるから、報酬はどーんと金貨600枚出すよ。どや?」
「ドワーフ大集落ダグマハル、ですか」
渡りに船、と言うべきなのだろうか。
塩漬けにされていたミッションの一つに、チャンスが到来したようだ。
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