第145話 洞窟(1)

 洞窟の入り口にたどり着いた俺たちは、ランプに灯をつけて、真っ暗な洞穴の中へと踏み込んでいく。


「この洞窟を抜ければ、目的地である谷の奥地にたどり着きますわ。でもここは『ヴァンパイアバット』の出現地帯。牙を使った吸血攻撃は要注意ですわ」


 ランプを手にしたアリアさんが、あたりを照らしながら進んでいく。

 頼りない灯りだけで進む洞窟は、どこかおどろおどろしい雰囲気を感じさせる。


「でもワイバーンなんかと比べると、全然たいした強さじゃないっすよね」


 楽観的な見解を示す弓月。

 たしかにそのあたりと比較すると、ヴァンパイアバットのステータスはよっぽど下ではあるが。


「でも数が出てくるらしいからな。油断は禁物だぞ、弓月」


「出たっす、先輩の『油断は禁物』。もうさんざん言われたから分かってるっすよ。小言がうるさいのは相変わらずっすね先輩」


「そういうお前の減らず口も、相変わらずだな」


「そりゃあ、うちと先輩の間柄っすから。これがなくなったら物足りないっす」


「同感だ」


 俺はそう答えて、弓月の頭をなでる。

 弓月は嬉しそうな顔で「うきゅっ」と鳴いた。


「やっぱり二人、仲いいなぁ……。でもちゃんと私のことも構ってね、大地くん。じゃないと私、心が闇に呑まれちゃいそう」


「えっ……あ、はい。もちろんです」


「ううっ、羨ましくなんてないですわ……。わたくしもいつか、いい人を見つけますの」


 アリアさんの口から、心の涙を流すような声がボソッと聞こえてくる。

 なんかホント、すみません。


 それからしばらく、俺たちは洞窟の中を進んでいく。

 緩やかな上りの道が続くものの、ほとんど枝分かれのない一本道なので、迷わずに進める。


 ふと、弓月がつぶやく。


「でもせっかくだから、ここで【弓攻撃力アップ】の効果の検証とかできないっすかね」


「そうだな。ヴァンパイアバットなら、強さも手頃か」


 調べたいのは、弓月が【弓攻撃力アップ】を取った場合に、フェンリルボウのダメージがどれだけ増加するかだ。

 そもそも一撃で倒せてしまう相手だと、ダメージの観測ができないから検証にならない。


「問題は今、うちがレベルアップ直前なんすよね」


「レベルが上がると、そもそもの魔力が上がるから純粋な差分が観測できない、か。まあ可能な範囲で調べるしかないだろ」


「っすね。臨機応変で行くっす」


「──ストップ。この先、何かいるよ」


 そのとき風音さんが、俺たちを制止した。


 俺たちが進む先にあるのは、洞窟の通路が広がって、広間のようになった場所だ。

 ここからだと、ランプの灯りだけでは、広間の奥のほうまではよく見えない。


「ヴァンパイアバットですか?」


「多分ね。この広間の奥、天井付近に気配が三つ。左右に散らばってるから、範囲魔法で全部を巻き込むのは難しそう」


「単体攻撃で地道に落とすしかないってことですか」


「だと思うよ」


 その後、俺たちは軽く作戦を練ってから、広間へと踏み込んでいく。


 広間に入り、アリアさんがランプの灯りで周囲を照らすと、待ち構えていた「そいつら」は一斉に襲い掛かってきた。


 深紅の体をもった巨大蝙蝠だ。

 翼を開いた差し渡しは、ゆうに四メートルを超える。


 それが三体。

 鋭い牙をむき出しにして、俺たちに向かって飛び掛かってくる。


「来たな──【ロックバレット】!」

「【ウィンドスラッシュ】!」

「【アイシクルランス】!」

「お前たちは実験台っすよ──フェンリルアロー!」


 待ち構えていたのはこちらも同じだ。

 俺たち四人は、まずは遠隔攻撃で、次に接近戦を交えて迎撃行動をとった。


 ヴァンパイアバットは、決して弱いモンスターではない。

 むしろかなり強い。

 ガーゴイルやサーベルタイガーといったそこそこのモンスターと比べても、一回り以上は高いステータスを持つ。


 だが今の俺たちが、三体を相手にして特に苦戦するほどでもない。

 一体ずつ順調に撃破して、問題なく戦闘を終えた。


 この戦闘で、弓月がレベルアップ。

 受けたダメージを治癒魔法で回復してから、俺たちは探索を再開した。

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