第142話 ワイバーン
俺と風音さんが、炎を宿した武器を手に前に出て、前方上空から襲い来るワイバーンを迎え撃つ。
「いけっ、【三連衝】!」
「はぁああああっ!」
「シギャァアアアアッ!」
俺の槍による三連撃と、風音さんの短剣二刀流、そしてワイバーンの尻尾による毒針攻撃とが交錯した。
「くっ……!」
苦悶の声を上げたのは、風音さんだ。
回避行動がわずかに及ばず、その腹部にワイバーンの尾針が突き刺さっていた。
どくんっと尻尾が脈動してから、引き抜かれる。
「風音さん!」
「はぁっ……はぁっ……だ、大丈夫、だけど……これが、ワイバーンの猛毒……はははっ……きっついな……」
いったん後方に飛び退った風音さんの声は、やや苦しげに聞こえた。
その一撃だけで、すぐにどうこうなるようなダメージではないはずだが、やはり心配にはなる。
なお猛毒対策として、俺と風音さんは「毒・麻痺消しの指輪」を装備していたのだが、残念ながら今回は効果が発揮されなかったようだ。
「猛毒」相手の場合は、指輪の効果発動率は50%ではなく10%になるらしく、もともと気休め程度の対策ではあったのだが。
「カザネさん! いま治療しますわ──【ピュリフィケーション】!」
「……ふぅっ。ありがとう、アリアさん。楽になったよ」
風音さんが受けた「猛毒」は、すぐにアリアさんが治療した。
HPを回復する魔法ではないので、受けた物理ダメージそのものは残っているだろうが、ひと安心だ。
一方でワイバーンも、当然無傷ではなかった。
先の接触で、俺と風音さんによるトータル五連撃はすべて命中し、大きな手傷を負わせていたのだ。
そこに──
「風音さんをよくも! フェンリルアロー!」
弓月が手にした弓から、氷の矢を放つ。
それもあやまたず命中し、ワイバーンは苦悶の叫びをあげる。
全身に受けた幾多の傷から、黒い靄をもらすワイバーン。
その姿は、いかにも瀕死といった様相だ。
「残りHP13っす! 先輩!」
「よし、これで終わりだ! ──っと!?」
俺はトドメのつもりで、槍による攻撃を放った。
だがそうは問屋が卸してくれなかった。
後ろ肢で地面に着地していたワイバーンが、巨体に似合わない素早い横移動で、俺の攻撃を回避してしまったのだ。
また同時に、死角から迫ったワイバーンの尻尾が、今にも俺を突き刺そうとしていた。
直後──
その尻尾を含めて、ワイバーンの全身が、黒い靄となって消滅する。
あとには魔石が落下した。
「油断大敵だよ、大地くん」
いつの間にかワイバーンの懐に潜り込んでいた風音さんが、燃え盛る二本の短剣を突き立てて、飛竜にトドメを刺していた。
俺はホッと安堵の息をつく。
「油断をしていたつもりはないんですけど。でもありがとうございます、風音さん。助かりました」
「どういたしまして。最近、大地くんや火垂ちゃんばっかり活躍してお姉さんらしいこと出来てなかったから、こういうのはちょっと嬉しいかも」
「そうでしたっけ? 風音さん、いつも格好良く攻撃を回避しているイメージとかありますけど。俺のほうがドンくさくて」
「そんなことないよー。大地くん、ダメな私のことをいつも助けてくれてるのに」
「はいはい、二人とも。謙遜合戦はいいっすから。今は勝利を喜ぶっすよ。ほら、アリアさんも」
弓月が俺たちの前にやってきて、両手を上げてみせてくる。
アリアさんもおずおずとやってきて、俺たちは四人でハイタッチをした。
アリアさん、ちょっと嬉しそう。
もちろんミッションも達成だ。
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ミッション『ワイバーンを1体討伐する』を達成した!
パーティ全員が12000ポイントの経験値を獲得!
新規ミッション『ヒュドラを1体討伐する』(経験値20000)を獲得!
六槍大地が30レベルにレベルアップ!
小太刀風音が31レベルにレベルアップ!
現在の経験値
六槍大地……138944/158925(次のレベルまで:19981)
小太刀風音……160256/181490(次のレベルまで:21234)
弓月火垂……138741/138867(次のレベルまで:126)
───────────────────────
経験値にずいぶん開きが出てきたな。
ストーンゴーレムやワイバーンといったボス格を、いずれも風音さんが仕留めているからだが。
ちなみにワイバーンは見た目ほとんどドラゴンなので、これでドラゴン討伐のミッションもクリアされたりしないかとほのかな期待を抱いていたが、さすがにそんなことはなかった。残念。
俺たちはその後、アリアさんの治癒魔法で風音さんを治癒してから、魔石を拾いつつ谷底の移動を再開する。
第一関門は、無事に突破だな。
──と、そうだ。
「検証」の結果がどうなったか、弓月に確認しておこう。
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