第108話 レブナント

 スケルトンによる襲撃が、いつあるとも分からない。

 俺たちと二人のドワーフ戦士は、集落の入り口前で話を始めた。


 ドワーフ戦士のうちの一人、バドンさんが話を切り出す。


「まずはおさらいだ。昨晩のうちに何者かの手によって、我らが集落の宝物庫が破られた。それに加えて、集落の守衛についていた戦士ベルガが失踪した。そして同じく、事件の容疑者候補であるグードンも行方をくらませた」


「ベルガさんってのは、門番やってた女性のドワーフっすよね。グードンってほうは洗剤、じゃなくて酒瓶持ってた陰気そうなドワーフっす」


「とりあえず弓月、洗剤から離れようか」


「グードンさんは酒瓶持ってベルガさんにアタックしようとしてたっす」


 あのグードンという陰気ドワーフは、守衛のドワーフ戦士ベルガさんにご執心っぽいという情報はあった。

 それが事件と関わりがあるのかは分からないが。


 二人のドワーフ戦士は、そのグードンこそが、この事件の犯人であろうとあたりを付けていた。


 ここまではおさらいだな。

 問題はその先だ。


 風音さんが、二人のドワーフ戦士に質問する。


「事件の犯人がグードンさんだとして、さっき『邪神の信徒』とか言ってましたよね。あれって?」


「おそらくはグードンの共犯者……いや、グードンを利用している黒幕と見るべきだろうな」


 そう答えるのは、もう一人のドワーフ戦士、ドドルガさんだ。

 ドドルガさんは険しい表情であご髭をさすりながら、言葉を続ける。


「おぬしらも知っているだろうが、『遊技と享楽を司る邪神ラティーマ』の信徒は、『ゲーム』と称して凶悪な犯罪行為を行う最悪の愉快犯どもだ。そいつ、あるいはそいつらがグードンをそそのかして宝物庫を破り、ベルガを誘拐したと見るべきだろう。具体的なやり方は分からんがな」


 まあその「邪神ラティーマ」とかいうのも、俺たちは初耳なのだが。

 おそらくは善良な神とか邪悪な神とか、この世界の神様にもいろいろいるんだろう。


 でもそこは深掘りしているとキリがなさそうだし、あまり重要ではなさそうなのでひとまずスルー。


 ようはその邪神の信徒がトチ狂ったヤバいやつらで、そいつらが裏でこの事件の糸を引いている可能性がある、ということだろう。


 顔が見えないので実感が湧かないが、そいつらのことは、とりあえず「謎の黒幕」とでもしておこう。


 で、その「謎の黒幕」と陰気ドワーフのグードンとは、協力関係あるいは利用関係にある可能性が高いと。

 徐々に全体像が見えてきた気がするな。


 気になる情報は、ほかにもある。

 たとえば──


「あの紙に書かれていた『レブナント』っていうのは、何だか分かります?」


 俺はバドンさん、ドドルガさんに質問してみた。


 例の木に括りつけられていた紙には、『守衛のドワーフ女は預かった。彼女は次の一晩を越すことなく「レブナント」へと成り果てるだろう』などと記されていた。


「レブナント」とは何なのか。


 ひょっとすると、この世界では常識に該当する情報なのかもしれないが、重要な疑問点を残しておくのも気持ちが悪い。


「ふむ、レブナントを知らんか。まあ戦士でも、そういうことはあろう。レブナントというのはな──」


 ドドルガさんは俺たちに、「レブナント」が何であるかを教えてくれた。

 その内容を聞いた俺たちは、一様に息をのむことになる。


 話を聞いた風音さんが、ふるえる声で言葉を絞り出す。


「レブナント……『戦士』の死体を素材にしたモンスター、ですか……?」


「ああ。おぬしらヒト族には、『戦士』ではなく『冒険者』などと言った方が通りがいいかもしれんがな」


 ドドルガさんが語った、「レブナント」の正体。

 それは聞くもおぞましいものだった。


 ドワーフ流にいえば「戦士」、この世界の人間流にいえば「冒険者」、俺たち流にいえば「探索者シーカー」──その死体を素材として、特殊な道具と儀式によって作り出されたモンスターが「レブナント」なのだという。


 その強さは、生前のものをほぼそのまま引き継ぐ。

 25レベルの探索者シーカーであれば、25レベル探索者シーカーの能力をほとんどそのまま持ち合わせた強力なモンスターとして生まれ落ちる。


 普通の人間の死体をモンスターにしたものが「ゾンビ」で、探索者シーカーの死体をモンスターにしたものが「レブナント」らしいが……。


 どちらにしてもおぞましいのだが、今の俺にとっては「レブナント」のほうが、実感を伴った嫌悪感として認識できた。


 というかそもそも、人間の死体がモンスターになるなんてことがあるのか……。


 ドドルガさんは、険しい表情のままこう続ける。


「闇魔法の使い手ならば、『ゾンビ』や『スケルトン』は、自分のスキルと素材だけあれば生み出すことができる。だが『レブナント』となるとそうはいかん。レブナントを生み出すには『レブナントケイン』と呼ばれる強い力を持った特殊な錫杖が必要だ。……だが宝物庫から奪われた宝物の中に、それがあったのだ。それが邪教徒どもの手に渡ってしまった可能性が高い」


「じゃあ……ベルガさんは殺されて、レブナントにされちまうってことっすか……?」


 弓月もさすがに、普段のふざけた態度ではない。

 今にも泣きだしそうな顔で、おそるおそるといった様子で聞く。


 だがバドンさんは、弓月の危惧を強い言葉で否定した。


「わしらがそうはさせんのだ! ……レブナントを生み出すためには、およそ一日がかりの邪悪な儀式をせねばならん。殺されるのは、その儀式の最後だ。邪教徒どもがベルガをレブナントにするつもりなら、まだ半日は生かされておるはず」


「だったら、その儀式が終わる前に助け出せばいいんすね!」


「ああ。──邪教徒どもは致命的な『ミス』を犯した。いや『不運』と言ったほうがいいかもしれん。そしてわしらにとっては『幸運』だ」


「『ミス』で『不運』? それって……?」


 風音さんが問うと、ドドルガさんがニヤリと笑ってこう答えた。


「やつらにとっての『不運』で、わしらにとっての『幸運』、それはな──」




 ちなみにだが、今回もまた特別ミッションが発生していた。

 少し前に、こんなメッセージボードが現れたのだ。


───────────────────────


 特別ミッション『ドワーフ戦士たちと協力して邪教徒を打倒する』が発生!

 ミッション達成時の獲得経験点……8000ポイント


───────────────────────


 ミッションとか関係なしに協力するつもりだったが、経験値ももらえるならそれに越したことはない。

 しかも8000ポイントとは、かなりの高経験値だ。


 俺たちはバドンさん、ドドルガさんとともに計画を練り、さっそく行動に移った。

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