第107話 邪教徒
二人のドワーフ戦士に続いて、集落の入り口まで向かう。
すると、そこから見えたのは──
「スケルトンか! こんな朝っぱらに、たった一体でだと!?」
ドワーフ戦士の一人がそう口にする。
集落の入り口から続く、緩やかな下り坂の一本道。
その先のほうに、動く骸骨の姿が見えた。
人体骨格の模型がそのまま動き出したような姿のそいつは、手には弓矢を持っていた。
まだ距離があり、魔法も届かないぐらいだ。
向こうの弓矢も、届くとは思えない。
ちなみに、あれがモンスターだとするなら、厳密には「スケルトン」ではなく「スケルトンアーチャー」だろう。
スケルトンに関しては、ミッションに名前が並んでいたからモンスター図鑑で確認したのだが、そのすぐ隣にスケルトンアーチャーというモンスターが掲載されていたのだ。
端的に言うと「ゴブリン」に対する「ゴブリンアーチャー」のようなもの。
だがどちらにせよ、強力なモンスターではない。
ステータス的にはゴブリンと同等以下だったはずだ。
スケルトンアーチャーは一度ケタケタと笑うような仕草を見せると、弓に矢をつがえ、それを放ってきた。
俺たちは一応身構えたが、思った通り、矢はまるで届かなかった。
矢は山道の途中に突き刺さり、黒い靄となって消え去る。
だが、その矢が消え去ったあたりに一つ、目につくものがあった。
木の枝に、何やら畳んだ紙のようなものが結びつけられていたのだ。
一方のスケルトンアーチャーは、またケタケタと笑うような仕草を見せると、俺たちに背を向けて走り去っていった。
「な、なんだ……? あのスケルトン、何を……」
「どうするバドン。あのスケルトン、追って叩くか?」
「いや、あの妙な動きが気になる。罠かもしれん。だが知性のないモンスターの動きとは思えんし……まさか、闇魔法の使い手が操っているのか!?」
「なんだと!?」
二人のドワーフ戦士は、どうやら一つの仮説にたどり着いたようだった。
でも俺には、何がなんだか、ちんぷんかんぷんだった。
弓月も首を傾げつつ、俺に聞いてくる。
「ねぇ先輩。あのドワーフたち、さっきから『闇魔法』がどうとか言ってるっすけど、何のことだか分かるっすか?
「そうなんだよな……。ひょっとするとこの世界には、俺たちが知らない『闇属性』の魔法なんてものがあるのかも」
「うへぇ。異世界オリジナルの魔法っすか」
俺たちの世界の
火、水、風、土の四属性だ。
だが「闇」なんて属性は、存在しなかったはずだ。
まあそれも、ネットのデータを見た限りではという話なのだが。
結局、ドワーフ戦士たちも俺たちも、走り去っていくスケルトンを追いかけることはしなかった。
深追いして、どんな罠が待ち受けているかも分からないからだ。
その代わりに、木の枝に括りつけられていた紙を、警戒しつつ回収しにいった。
その紙は、どうやら手紙のようだった。
畳まれていたそれを開いてみると、そこには血のような赤い文字で、こんな文章が記されていた。
『集落のドワーフ戦士たちに告ぐ。守衛のドワーフ女は預かった。彼女は次の一晩を越すことなく、レブナントへと成り果てるだろう。彼女の命が惜しければ、集落の西にある我らの神殿まで助けに来てもいい。だが気をつけたまえ。集落の周囲には、多数のスケルトンを隠して配置してある。さあ、ゲームを始めよう! ──遊戯の神の信徒より』
その文面を見たドワーフ戦士の一人は、怒りに震えたかと思うと、やがて忌々しげに手紙を握りつぶした。
「ゲームだと……!? どこの誰だか知らんが、ふざけおって! これはグードンの浅知恵ではないぞ!」
「くそっ、なんてことだ! 邪神ラティーマの信徒が、この件に絡んでいるとしたら……!」
「ああ、最悪だ! 最悪の狂人どもに目をつけられたことになるぞ!」
二人のドワーフ戦士たちは、次々と言葉を吐き捨てる。
俺たちには状況がよく分からないのだが、先ほどまでと比べて状況がひっ迫したことだけは、二人のドワーフ戦士の様子を見れば明らかに分かることだった。
そしておそらくは──あの守衛をしていた女ドワーフの戦士が、命に関わる窮地に立たされているのだろうということも。
彼女とはわずかに挨拶を交わした程度だが、それを見捨てて立ち去りたいと思えるほどに、俺はドライな人間ではなかったようだ。
俺は風音さん、弓月に視線を向ける。
二人はアイコンタクトで、肯定の意志を示してきた。
俺は二人のドワーフ戦士に向かって言う。
「すみません。状況があまり分かっていないんですが──俺たちにも、何か手伝えることがあるかもしれません。詳しく話を聞かせてもらえますか」
それを聞いたドワーフ戦士たちは目を丸くし、次には感謝の声をあげた。
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