第106話 事情聴取
朝起きると、集落じゅうがざわついていた。
そのドワーフたちの騒然とした様子から、何か日常的ではない出来事が起こったことが伺えた。
俺たちは朝食をとる間もなく、ドワーフたちから事情聴取を受けることとなった。
よそ者だから、事件の犯人候補として真っ先に疑われたのだ。
聴取を受けながら聞いた、事件のあらましはこうだ。
今日の守衛役のドワーフ戦士が、早朝の点検で宝物庫のチェックを行うと、扉の鍵が壊され中の宝物が根こそぎ奪われていた。
それに加えて、昨日の守衛の夜番だった女ドワーフの戦士ベルガが、朝には行方をくらましていた。
彼女が守衛に立っていたはずの集落の門前には、地面に落ちて割れた酒瓶と、彼女の武器である長柄の斧が転がっていた。
一方で俺たちは、昨晩何をしていたかなどの簡単な質問を受けた。
だが幸い、さほど強く疑われている様子ではなかった。
参考程度に話を聞きにきたという雰囲気だった。
というのも、別に有力な犯人候補が存在したからだ。
「このヒト族の戦士たちは、事件とは関係なかろう。やはりグードンが犯人と見るべきだろうな」
守衛の詰所で事情聴取を受けていた俺たちの前には、二人のドワーフ戦士がいる。
そのうちの一人が、もう一人に向かってそう結論付けた。
それを聞いた風音さんが、俺と弓月に問いかけてくる。
「グードンっていうと、昨日道端で会ったあのドワーフだよね?」
「酒瓶抱えて歩いてた、根暗そうなドワーフっすよね。先輩よりもっと根暗そうだったからよく覚えてるっす」
「弓月、話のついでに俺をディスるのはやめてほしい」
さらに詳しく話を聞いたところ、あの守衛の女ドワーフだけではなく、グードンというあの陰気そうなドワーフも集落内に姿が見えないとのこと。
事件の詳細はまだ分からないが、彼がこの事件の犯人である可能性が高いと、目の前の二人のドワーフ戦士たちは目途をつけているようだった。
ちなみにドワーフ社会における「戦士」というのは、この世界の人間社会における「冒険者」のようなもので、俺たち
いちいち呼び名が違って面倒くさいが、なんとなく分かるからまあいいとしよう。
この百人を少し超える程度の集落を守るドワーフ戦士は、全部で三人。
そのうち一人は、昨日守衛に立っていて今朝には行方不明となった女ドワーフ。
残りの二人が現在俺たちの目の前にいて、事件の調査に乗り出している形だ。
「だがグードンの目的は何だ? 集落での暮らしが嫌になって、宝を持って人間の街にでも逃げようというのか」
「あり得るな。だがベルガはどうだ。あの善良で責任感が強いベルガが、グードンに協力して宝物庫を破るとは思えんぞ」
「集落の入り口に、ベルガの武器と割れた酒瓶が転がっていたんだ。ベルガが共犯とは思えん」
「グードンのやつ、ベルガに熱を上げていたが、ベルガのほうはずっと袖にしていたからな。真相は分からんが、ベルガはグードンの犯行に巻き込まれた可能性が高いか」
「しかしベルガも問題だが、宝物庫にあった『アレ』が盗まれたことも大問題だぞ。アレが邪悪な闇魔法使いの手に渡れば、大変なことになる」
二人のドワーフ戦士は、あれやこれやと議論を進めていく。
だがそこで、一人がはたと気付いたように、俺たちに向き直った。
「おおっと、忘れていた。ヒト族の戦士たち、疑ってすまなかったな。聴取は終わったから、帰ってもらって構わんよ。協力ありがとう」
退出許可が出た。
俺たち三人は、二人のドワーフ戦士に会釈をして、詰所から出ようとした。
だが、そのときだ。
詰所の外から、こんな声が聞こえてきた。
「おーい! バドン、ドドルガ、大変だ! 集落の外に、モンスターが現れたぞ!」
「なんだと!?」
「えぇい、こんなときに!」
二人のドワーフ戦士は、立てかけてあった斧を手にして、詰所の外に飛び出していく。
俺たちもまた、成り行き上、それに続いて外へと出ていった。
***
こんにちは。
作者がお邪魔します。告知でございます。
ありがたいことに、本作『朝起きたら
イラストはtefさんです。
ファミ通文庫さんから、文庫ではなく単行本での出版予定。
発売日は年度内(おそらく2月ぐらい)になると思います。
どうぞよろしくお願いします。m(_ _)m
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