第104話 ドワーフ集落
夕焼け空の下。
俺たちはドワーフ集落の中を、宿まで案内してくれるというバルドルさんについて進んでいく。
集落は山の斜面を利用して作られた段々構造になっているため、集落内のあちこちに階段や坂道があり、それらを頻繁に上り下りしなければならなかった。
俺たちは
こんな集落で暮らしていたら、常人でも足腰が強くなりそうだ。
バルドルさんはほかのドワーフとすれ違うたび、陽気に挨拶を交わしていく。
このぐらいの規模の集落だと、全員が知り合いのようなものなんだろう。
だがそのうちの一人、陰気そうな男ドワーフにバルドルさんが声をかけたとき、俺は少しの引っ掛かりを覚えた。
「おう、グードン。酒瓶なんぞ隠し持ってどこに行くんだ? ……ははーん、さてはまたベルガにアタックしに行くつもりだな?」
バルドルさんが声をかけると、酒瓶を抱え持っていた陰気そうなドワーフは、びくりと震えた。
そして次には、バルドルさんのことをぎろりと睨みつけて、こう言ったのだ。
「そうやって俺のことを見下していられるのも今のうちだ、バルドル」
陰気そうなドワーフは、バルドルさんと俺たちを無視するようにして、通り過ぎていった。
それを見送ったバルドルさんは、小さくため息をつく。
「まったくあいつは、変わらんなぁ。──すまんな、おぬしら。グードンのやつは昔っから、性根がねじくれておってな」
「いえ、別にそれはいいんですけど」
「でも『アタック』って、洗剤とかじゃなくて、色恋沙汰っすよね? 酒瓶持ってアタックしに行くのがドワーフの文化っすか……。あ、でも風音さんなら?」
「いやぁ、確かにお酒は好きだけど、それはさすがに」
「はははっ。まあわしらドワーフでも、いろんなやり方はあるがな。さ、宿はもうすぐそこだ。その三軒先がわしの工房なんだがな──」
バルドルさんもそれ以上気にした風もなく、先へと進んでいく。
だが俺は、その通り過ぎていったドワーフの後ろ姿にどす黒い気配を感じて、妙に気になっていた。
***
「さ、着いたぞ。──おいダーマ、客を連れて来たぞ」
バルドルさんは一軒の宿の前に到着すると、勝手知ったる我が家のように入り口の扉を開く。
集落にある宿は、どうやらこの一軒だけで、選択肢はなさそうだ。
宿の入り口をくぐってすぐの正面、カウンターの向こうに腰掛けていたのは、人の良さそうなドワーフの老婆だった。
「おやバルドル、お帰り。ヒト族のお客さんもいらっしゃい、歓迎するよ。部屋はどうするね? 三人部屋もあるけど」
「いえ、空いているなら男女別で二部屋──むぐっ」
「三人部屋でお願いしまぁす。火垂ちゃんもそれでいいよね?」
「もちろんいいっすよ。先輩ひとり別の部屋は可哀想っすからね」
俺は風音さんに背後から口をふさがれ、発言権を奪われてしまった。
あ、あの、キミたち……?
ドワーフのお婆さんはくすくすと笑ってから、重い腰を上げて、杖を片手に部屋へと案内してくれる。
ちなみにバルドルさんは、宿まで案内したところで役目は終わりとばかりに立ち去って行った。
俺は憮然としながら、ドワーフの老婆のあとをついていく。
隣を歩く風音さんをジト目で見て、苦言を一言。
「あの、風音さん。俺をからかって遊ぶのはいいですけど、ほどほどにしないと俺のブレーキもいつか壊れますよ」
「んー、からかってるってだけでもないんだけどな。大地くんは、私たちと一緒の部屋は、嫌?」
「それは……嫌なわけないじゃないですか。そうじゃなくて、男女同室は問題でしょう。不可抗力だった昨日はまだ分かりますけど。──それに弓月、お前も何考えてんだ」
「先輩なら大丈夫ってことっすよ。それに先輩も、一人ぼっちは寂しいし心細いんじゃないっすか? うちだったら異世界で一人ぼっちの部屋は耐えられないっす」
「……まあ、それはなくはないが」
「そういうこと。三人一緒の部屋のほうが、いろいろ安心だよ。だいたい、私と火垂ちゃんがいいって言ってて、大地くんも嫌じゃない。それ以上に何か問題ある?」
「それはそうですけど……」
そんな感じで俺の抗議は無視され、三人同室で宿泊することになってしまった。
ドワーフ老婆の案内で、三人部屋へと通された俺たち。
部屋は狭すぎるということもなく、ほど良い空間。
掃除も行き届いていて清潔感があり、三台あるベッドはドワーフサイズということもなく、俺たちが寝ても足を伸ばせるサイズだ。
俺たち三人は、それぞれ一台ずつのベッドを占拠して、ようやく腰を落ち着けた。
ドワーフ老婆は鍵を渡して立ち去っていく。
「それじゃ、レベルアップとスキルのチェックをするか」
「そうだね。こっちの世界に来てからは初めてだ」
「26レベルで修得可能スキル増えてるっすかね?」
「その可能性も十分にあるだろうな」
この集落に着いて、ミッション経験値でレベルアップしていた俺たちは、あらためてステータスのチェックを行った。
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