第100話 クエスト達成
ウォルズ村を出てから数時間歩いて、街の近くまで戻ってきた。
村を出たときには日の入りの時刻だったが、今はもうとっぷりと日が暮れて、あたりは夜闇に包まれている。
ランタン(村に向かう前に購入しておいた)の灯りを頼りに歩いてきた俺たちだったが、街を目の前にして、驚くべき光景を目の当たりにすることとなった。
街の門扉が、門番によって今にも閉じられようとしていたのだ。
……え、マジで?
だが扉を閉じようとしていた門番は、その最中に、俺たちの姿に気付いたようだ。
扉を閉じる動作を中断し、俺たちに向かって声をかけてきた。
「おーい、そこの三人! 街に入るなら、早くしてくれ。もう門を閉じる時間だからな」
「「「は、はいっ!」」」
俺たちは慌てて、街の中へと駆け込んだ。
間一髪セーフ。
扉を閉めた門番は、俺たちの姿を近くで見て、「ああ」と納得した声をあげる。
「昼間のキミたちか。街の門は八時には閉じるからな。街に入りたければ、その前には戻ってくるように」
昼間に俺たちの応対をしてくれた門番だった。
なるほど、街の門限なんてものがあるのか。
二十四時間動いている街が当たり前の世界に慣れていると、こういうのは意表を突かれる。
「そういえばダンジョン時計の時間、合ってるんだ。今、20時01分になってる」
風音さんが魔石原料の時計を見て、そう口にする。
俺たちの世界とこの異世界、いろいろ噛み合ったり噛み合わなかったりするな。
ともあれ、どうにか街には滑り込めた。
俺たちはひとまず冒険者ギルドへと向かうと、窓口でクエスト達成の報告をする。
確認作業があった後に、クエスト達成が認められた。
「お待たせしました。クエスト報酬の金貨12枚です。獲得した魔石は、魔石換金窓口で別途換金してください」
トレーに載せて、黄金色の貨幣が12枚差し出される。
俺はそれを三等分して、風音さんと弓月に取り分を配り、残った4枚の金貨を自分の財布の小銭入れに放り込んだ。
金貨や銀貨の大きさは、かなり小さい。
どちらも一円玉と同じかそれ以下ぐらいの大きさなので、あまり小銭入れを圧迫しない。
それでも新しく小銭入れを買ったほうが良さそうではあるが。
しかし金貨4枚──およそ4万円相当かぁ。
このクエストの達成には、往復でだいたい八時間ぐらいかかったんだろうか。
一人4万円の報酬なら、悪くはない気がする。
でもそれもゴブリンの群れを相手にするのが楽勝だったからであって、もっと死にそうな目に遭っていたら割に合わないと思ったかもしれない。
それに今回はたまたま手頃なクエストを受けることができたが、この雰囲気だと、働きたくても仕事がないという日も多くなりそうだ。
安定収入のある仕事と一緒に考えたらダメそうだな。
ちなみにこっちに来てからは、収入は等分することにしていた。
万が一、はぐれたりしたら大変だし、元いた世界とはいろいろと勝手が違うからな。
そして報酬を受け取ったのとほぼ同時に、ピコンッと音が聞こえた。
いつものようにメッセージボックスが開く。
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ミッション『Eランククエストを1回クリアする』を達成した!
パーティ全員が2000ポイントずつの経験値を獲得!
新規ミッション『Dランククエストを1回クリアする』(経験値3000)を獲得!
新規ミッション『エルフの集落に到達する』(経験値3000)を獲得!
新規ミッション『ドワーフの集落に到達する』(経験値3000)を獲得!
現在の経験値
六槍大地……75466/78577(次のレベルまで:3111)
小太刀風音……75536/78577(次のレベルまで:3041)
弓月火垂……75459/78577(次のレベルまで:3118)
───────────────────────
よしよし、ミッション達成判定が入ったな。
達成条件を満たしていないんじゃないかと内心恐々としていたが、これでひと安心だ。
新規ミッションのおかわりも来た。
ミッションが多いのはいいことだ。
達成しないことによるペナルティがあるわけでもないし。
俺たちはさらに、魔石換金窓口で魔石の換金を行った。
ゴブリンの魔石8個、ホブゴブリンの魔石2個、ゴブリンアーチャーの魔石2個、ゴブリンシャーマンの魔石1個で、合計額は銀貨9枚と銅貨6枚だった。
これも三人で分配して、財布にしまい込む。
確かに魔石分は、クエスト報酬と比べると誤差みたいな金額だな。
それにしても──
「今日は疲れたな……」
「本当だよ~。こっちの世界に来る前から数えたら、今日はもう十二時間ぐらい動きっぱなしなんじゃない?」
「それにうち、お腹減ったっすよ。早く夕飯食べたいっす」
「ああ。それじゃ夕飯と、今日の寝床の確保だな」
お金はあるから、飲食店や宿の利用はできるはずだ。
そう思っていたのだが──
俺たちはギルドを出て、夕食の場と宿を探す。
夕食は、定食屋のような店で済ませることができた。
一人あたり銀貨1枚で、パンとシチュー、肉料理などでお腹いっぱいになるディナーにありつくことができた。
問題は、宿の方だった。
今ちょうど、よその街から来たそこそこの規模の商隊が街に滞在しているらしく、街に数軒あった宿屋はどこもいっぱいだった。
そして最後にたどり着いた宿のおばちゃんは、頬に手を当ててこう言ったのだ。
「すまないねぇ。二人用のスイートルームなら、一室だけ空いてるんだけど」
俺たち三人は顔を見合わせる。
困った。
スイートルームはまあいいとしても、俺たちは三人パーティだし、何より男女別で部屋を分けないとまずいのだが。
「じゃあ、風音さんと弓月の二人でここに泊まります? 俺はどこかで毛布でも調達して野宿とか……」
「えーっ、そんなのダメだよ。大地くんも一緒じゃなきゃダメ」
「そうっすね。さすがにうちも、それは気が引けるっす。先輩のくせにいい格好しすぎっすよ」
「いや、そうは言うけどな。じゃあどうする」
「うーん……。──あの、スイートルームって、宿泊料はいくらになります? 二人用ということは、ベッドは二つですよね。ベッドの大きさは、結構大きいですか?」
風音さんが宿のおばちゃんに、謎の質問を始めた。
「スイートルームは朝食付きで、一人一泊金貨1枚だよ。ベッドは二人並んで寝ても十分な大きさのが二台だね」
それを聞いた風音さんは、弓月のほうを見る。
対して弓月は、にこっと笑った。
「うちはもちろんいいっすよ」
「オッケー。じゃ、それでいこっか」
「え? え?」
アイコンタクトと暗黙の了解で話を進める風音さんと弓月に対して、俺は一人、置いてけぼりだった。
風音さんは宿のおばちゃんに、こう交渉を持ちかける。
「じゃあ、そのスイートルームを三人で利用するので、三人で金貨2枚半に負かりませんか?」
「ふふっ、値切り上手だねお嬢ちゃん。いいよ、朝食も三人分つけてあげる。金貨2枚半だ」
「やった。ありがとうございます♪」
宿のおばちゃんと風音さんとの間で、交渉がまとまってしまった。
えーっと……?
いったい何がどうなったのかな?
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