第99話 無双

 どうにか間に合ったようだ。


 村人に案内されてゴブリンの洞窟に向かった俺たちは、その道の途中で、ゴブリンの群れに襲われている一人の少女を発見した。


 場所は薄暗い森の中。

 少女に襲い掛かろうとしていた一体のゴブリンに、俺は【ロックバレット】の魔法を放つ。


 ゴブリンは俺が放った岩石弾の直撃を受けて、黒い靄となって消滅、魔石へと変わった。

 よし、これなら──


 ゴブリンはまだ、十体以上が残っている。

 その中には、ホブゴブリンが二体、ゴブリンアーチャーが二体、ゴブリンシャーマンが一体混じっていた。


 と言っても、この世界でモンスターに遭遇するのは初めてなので、「見た目でそう見えるやつら」ということだが。


 この世界の「ゴブリン」は、俺たちの世界の「ゴブリン」と同じものなのかどうか。

 俺は少女のもとに駆け寄りながら、魔導士姿の後輩に声をかける。


「弓月、確認頼む!」


「オーライっす──【モンスター鑑定】! ……ん、ステータスはうちらの知ってるゴブリンと同じっすね。ホブやアーチャー、シャーマンも完全一致っす」


 よし。

【モンスター鑑定】が通るし、ステータスも同じ。

 倒したときの消滅の仕方も同じだし、魔石になるところも同じ。


 ここまで来れば、確定でいいだろう。

 この世界のモンスターは、俺たちの世界のモンスターと同様の存在だ。


 俺は少女のもとに駆け寄ると、ゴブリンの群れから守るべく少女の前に立つ。

 見れば少女は、腹部と脚に深手を負っていた。


「大丈夫か? あいつらを片付けたら治すから、ちょっとだけ待っていてくれ」


「あ……あなたたちは……?」


「あー……村からゴブリン退治の依頼を受けた『冒険者』だな」


 俺が少女とそんな会話をする一方。


 少し離れた場所に固まっていたゴブリンどもは、シャーマンの号令一下、俺たちに向かって一斉に襲い掛かってきた。


 連中は俺たちの登場に驚き戸惑っていたようだが、ようやく気を取り直したようだ。


 武器を振り上げ駆け寄ってくる、ゴブリンやホブゴブリン。

 アーチャーは弓に矢をつがえ、シャーマンは魔法発動の準備を始める。


 だがそれでは、遅い。


「じゃあ風音さん、やっちゃってください」


「オーケー、大地くん! ──切り裂け、【ウィンドストーム】!」


 俺よりも早く少女のもとにたどり着いていた風音さんは、すでに魔法発動の準備を整えていた。


 風音さんの魔法が発動する。

 ゴゥッと唸りをあげて、風の刃を大量に含んだ嵐がゴブリンの群れを包み込んだ。


 魔法の効果範囲に巻き込まれた十体近くのゴブリンは、無数の風の刃に切り裂かれて次々に消滅、魔石となった。


 その中には、ゴブリンアーチャーやゴブリンシャーマンといった遠隔攻撃使いがすべて含まれていた。

 効果範囲に巻き込めずに残ったのは、ゴブリンが三体と、ホブゴブリンが一体だけ。


 こうなれば、あとの対処は簡単だ。

 俺と風音さんの武器攻撃に、弓月の【ファイアボルト】なども織り交ぜて、残党をちゃちゃっと片付けた。


 あとには地面に落ちた十数個の魔石が残るばかりとなる。

 風音さんと弓月が、それを拾って回った。


「す、すごい……あのゴブリンたちを、あっという間に……これが、プロの冒険者の実力……」


 助けた少女は、目を丸くしていた。


 俺は、ぺたんと座り込んだ少女の前で膝をついて、治癒を施してやる。


「治癒魔法を使うぞ──【アースヒール】」


 治癒の光が、少女の体を包み込む。

 苦しげだった少女の表情が、すぐに和らいだ。


「うそ……痛みが消えた……怪我が、全部治ってる……」


 少女はまた、驚きの表情を見せていた。


 さて、これで目の前の問題はすべて片付いたかな。

 するとそのタイミングで、ピコンッと音が聞こえて、メッセージボックスが開いた。


───────────────────────


 ミッション『ゴブリンを10体討伐する』を達成した!

 パーティ全員が2000ポイントずつの経験値を獲得!


 特別ミッション『ゴブリンの洞窟に向かった村娘を救助する』を達成した!

 パーティ全員が2000ポイントずつの経験値を獲得!


 新規ミッション『ゾンビを10体討伐する』(経験値2000)を獲得!

 新規ミッション『スケルトンを10体討伐する』(経験値2000)を獲得!

 新規ミッション『オークを5体討伐する』(経験値3000)を獲得!

 新規ミッション『オーガを3体討伐する』(経験値5000)を獲得!

 新規ミッション『ドラゴンを1体討伐する』(経験値30000)を獲得!


 現在の経験値

 六槍大地……73466/78577(次のレベルまで:5111)

 小太刀風音……73536/78577(次のレベルまで:5041)

 弓月火垂……73459/78577(次のレベルまで:5118)


───────────────────────


 お、二つ同時にクリアしたな。

 ミッション達成による経験値がダブルで入った模様。


 でも『Eランククエストを1回クリアする』は未達成か。

 ここで倒した以外にも、まだ条件下のゴブリンが残っているのか。

 あるいは冒険者ギルドに戻って報告しないと、条件を満たさないのかもしれない。


 あと新規ミッションがもりもり増えた。

 不穏当なものも見えるが、ひとまずそれは置いておこう。


「お待たせ、大地くん」


「魔石拾ってきたっすよ、先輩。全部で12個っすね」


 風音さんと弓月が、魔石を回収して戻ってきた。

 俺もまた、足元にあった魔石を拾い上げる。


「じゃあ、これ含めて13個だな」


 ということは、無印ゴブリン以外もミッションの数にカウントされたわけか。

 ミッションの文面には多少ラフなところもあるみたいだな。


 その後俺たちは、ゴブリンが棲みついたという洞窟へと向かって、その中を探索した。

 だがあの場で倒したのが全部だったらしく、洞窟にはもうゴブリンはいなかった。


 任務達成を確認した俺たちは、少女を連れて村へと帰還。

 村長に報告して、約束の追加報酬とたくさんの感謝の言葉を受け取った。


 それから村を出て、街への帰路につく。

 その頃にはもう、夕日が山間に沈みかかる時刻となっていた。


 夕焼け空の下、村をあとにする俺たちの背中に、少女が声を掛けてくる。

 俺たちが助けた、あの少女だ。


「あ、あの……! 本当にありがとうございました! 私、皆さんみたいな立派な冒険者になれるように頑張ります!」


 村の入り口に立って俺たちを見送る少女の瞳には、決意が宿っているように見えた。


 あと、なんだか俺たちが、憧れの存在みたいになっている気がする。


「大地くん、何か言葉かけてあげなよ」


「え、俺ですか?」


「そーっすよ。先輩がうちらのリーダーじゃないっすか」


「待って。いつからそうなった」


 だが俺の抗議もむなしく、風音さんと弓月に背中を押された俺は、何かを言わなければならない立場に立たされてしまった。


 はぁっ……しょうがない。

 俺はできるだけ先輩冒険者らしい顔を作って、少女に声をかける。


「ああ、頑張って。でも無理はするなよ。次に同じようなことがあっても、俺たちは助けに来れないからな」


「はい! 無理をしないように頑張ります! ありがとうございました!」


 深々と頭を下げ、その後に手を振ってくる少女に、俺たち三人も手を振り返す。


 そして今度こそ、街へと向かう道を歩き始めた。

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