第92話 門番
三人でしばらく街道を進んでいくと、やがて街の門の前までやってきた。
門の前では、通行チェック待ちの人々が並んでいる。
門番は門を通ろうとする一人ひとりと、それぞれいくつかの言葉を交わし、しかる後に門の通過を許しているようだ。
やがて数人分のチェックが終わり、俺たちの番がやってきた。
「冒険者のようだが、見掛けない顔だな。それにその黒髪。遠くから旅をしてきたのか?」
門番は出会い頭に、そう問いかけてきた。
俺は考えておいた通りの設定を口にする。
「俺たち気が付いたら、この街が見えるあの丘の上にいたんですけど、それより前の記憶がないんです。それで、ひとまずこの街に来てみようと思って」
俺はそう言って、自分たちが最初に立っていた丘がある方角を指さした。
自分で言っていて、さすがに無理がある設定だったかとも思ったが、ほかに冴えた方法が思い浮かばないのも事実だ。
応対する門番は、眉間にしわを寄せる。
「記憶喪失だというのか。しかも【翻訳】スキル持ちの冒険者か……。俺だけでは判断できんな。悪いが列を外れて、少し待っていてもらえるか。──おーい、ちょっと手伝ってくれ!」
門番が近くにあった小屋に声をかけると、しばらくして、小屋の中から別の男が現れた。
その男が俺たちの応対を始める。
俺たちは、いざとなったらいつでも逃げられるように心の準備をしながら、男の指示に従った。
いくつかの質問を受け、答えていく。
元の世界に関することを除いて、正直に答えた。
男は、基本的に親切な対応をしてくれたが、俺たちが危険人物でないかどうかを疑っているようだった。
俺はできるだけ丁寧かつ穏当に、自分たちの無害さをアピールした。
しばらくして、話がまとまった。
ある条件を満たせば、門をくぐっていいと言われた。
その条件とは──
「入市税……ですか?」
「ああ。一人あたり銀貨1枚だ。これはキミたちだけじゃなく、よそ者がこの街に入るためには必ず支払わなければならないものだ」
「銀貨……俺たち多分、お金は持っていないと思います。ほかに何か……たとえば、物で支払うとか、労働で支払うとかはできませんか?」
「そうだな。冒険者だったら『HPポーション』などのアイテムは持っていないか? 三人分の入市税だったら『HPポーション』二本でいいぞ」
「『HPポーション』ですか。──風音さん、確か二本、【アイテムボックス】に入っていたと思うんですけど」
「う、うん。今出すね──【アイテムボックス】!」
風音さんは【アイテムボックス】を出現させ、そこから「HPポーション」を二本取り出す。
ちなみに【アイテムボックス】を出しても、特に驚かれたりはしなかった。
風音さんが「HPポーション」を二本渡すと、男はしげしげとそれを見てから、こうつぶやいた。
「【アイテム鑑定】をしてみたが、確かにどちらも『HPポーション』のようだ。よし、通っていいぞ」
「「「ありがとうございます」」」
俺たち三人は男にお礼を言ってから、街の門をくぐった。
な、何とかなった……。
俺はホッと息をつく。
と、次の瞬間──
門をくぐって街の中に踏み込んだ直後に、「ピコンッ」と何かの音がした。
それと同時に、視界に「メッセージボックス」が現れる。
ステータスを開いたときと同じような半透明のボードで、そこにはこう記されていた。
───────────────────────
ミッション『人口3000人以上の街に到達する』を達成した!
パーティの全員が1000ポイントずつの経験値を獲得!
新規ミッション『人口1万人以上の街に到達する』を獲得!
現在の経験値
六槍大地……68445/78577(次のレベルまで:10132)
小太刀風音……68445/78577(次のレベルまで:10132)
弓月火垂……68445/78577(次のレベルまで:10132)
───────────────────────
ほう……?
これが「ミッション」か。
いろいろ不思議なことはあるが、雰囲気はなんとなく分かった気がする。
また「限界突破イベントガイド」の冊子を確認すると、ミッション一覧にある「人口3000人以上の街に到達する」に「ミッション達成」というハンコのようなものが押され、新たに以下のミッションが追加されていた。
───────────────────────
・人口1万人以上の街に到達する……獲得経験値3000
───────────────────────
スタンプラリーか何かですか、という感想はさておき。
この本、自然に新たな記述が書き込まれるんだな。
そんな気はしていたけど。
ファンタジー現象の大バーゲンセールって感じだ。
まあそれは置いておいて。
ようやく街に入ることができた。
俺たちは大通りをまっすぐに進んでいく。
目指すは──「冒険者ギルド」だ。
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