第90話 能力検証と状態確認

 俺は丘の上から見下ろし、道の先にある街へと視線を向ける。


「幸いなことに、街が見えていますから。とりあえずあそこに向かうべきだと思います。多分ですけど、山野をやみくもに歩き回るよりは、いくらか生存の可能性が高いかと。言語能力等のスキルも与えられているらしいですし──【ステータスオープン】」


 俺は自分のステータスを開いてみる。

 すると──あった、これか。



六槍大地

レベル:25

経験値:67445/78577

HP :162/162

MP :144/144

筋力 :24

耐久力:27

敏捷力:20

魔力 :24

●スキル

【アースヒール】

【マッピング】

【HPアップ(耐久力×6)】

【MPアップ(魔力×6)】

【槍攻撃力アップ(+20)】

【ロックバレット】

【プロテクション】

【ガイアヒール】

【宝箱ドロップ率2倍】

【三連衝】

【アイテム修繕】

【命中強化】

【グランドヒール】

【翻訳】(new!)

残りスキルポイント:0



【翻訳】というスキルが、俺のステータスに新たに追加されていた。

 これが言語能力というやつだろう。


 ちなみに、経験値も次のレベルになるのに必要な値が更新されていた。

 次のレベルに上がるには、えーっと……11132ポイントの経験値が必要か。


 MPも全快している。

 ダンジョンの例の小部屋にたどり着いたときにはそれなりに消耗していたので、これは地味にありがたい。


 さておき、問題は【翻訳】スキルだ。


 この【翻訳】というスキルがどういう効果を持つのか、よく分からない。

 何か確かめる方法は──


「なあ弓月。お前、英語は得意か?」


「うん、英語っすか? 任せろっすよ。『ディス・イズ・ア・ペンこれはペンっす!』」


「ん……?」


 なんかつたない英語と日本語で、弓月の声が二重音声みたいにして聞こえたぞ。


 口の動きは「ディス・イズ・ア・ペン」なのだが、その声は小さく聞こえて、俺の耳にはっきりと聞こえてきた言葉は「これはペンっす」だった。


 テレビで外国人にインタビューするときに、日本語による翻訳音声が入るような感じだ。


 英語が日本語に聞こえるということは、母国語基準か?

 まあそこはどうでもいいか。


「風音さん、今の分かりました?」


「う、うん。びっくりした。火垂ちゃんの声が二重に聞こえた」


「ほへー、そうなんすか。うちには分からなかったっすよ。ねぇ先輩、なんか英語でしゃべってみてほしいっす」


「あー……『キャン・ユー・スピーク・イングリッシュ?』」


「『ノー無理っす!』 おおっ、ホントっすよ! 面白いっすねこれ!」


 しゃべっている俺のほうは、自分の言葉は特に翻訳されなかった。

 聞く側の能力なのかこれ。


 じゃあ俺たちの言葉は通じないんじゃないか? という疑問は残るが、俺たち三人だけではこれ以上の検証がしようがない。

 とりあえず次の課題に進もう。


「【アイテムボックス】なんかのスキルは使えるみたいだけど、一応ひと通り能力を確認しておいた方がいいな。探索者シーカーの能力が、この世界でも使えるのかどうか。弓月、試しに【ファイアボルト】を適当に撃ってみてもらえるか?」


「了解っす! ──いけっ、【ファイアボルト】!」


 弓月が突き出した杖の先から、何もない中空に向けて火炎弾が発射された。

 火炎弾は一定距離まで飛んでいって、消滅する。


「よし、魔法も使えるみたいだな。あとは適当に動いてみて──」


 俺は槍を構えて、突いたり払ったりしてみた。

 さらにジャンプしたり、走ってみたり。


 風音さんも同じように、二本の短剣を振ったり、アクロバティックな運動をしたりしてみせた。


 結果、明らかに探索者シーカーの動きであることが分かった。

 俺もそうだが、特に風音さんの体の動きは、常人女子のそれから大きくかけ離れている。


 確認した限り、どうやらこの世界でも探索者シーカーの力は使えるようだ。

 まあモンスターと戦うという話なので、そうでないと話にならないのだが。


 モンスターといえば、この世界にモンスターがいるとして、ダンジョンのモンスターと同じようなものなんだろうか。

 倒したら消滅して、魔石になったりするのかどうなのか。


 さておき、次の確認事項だ。


「手持ちのアイテムを確認しておこう。二人とも、【アイテムボックス】の中のアイテムを全部出してもらえる?」


「はーい」

「かしこまりっす」


 二人の【アイテムボックス】の中のアイテム、および装備品を再確認すると、こんな内容だった。



六槍大地・装備品

 武器:コルセスカ

 盾:アイアンシールド

 胴:クイルブイリ

 頭:レザーヘルム

 指:抗魔の指輪


小太刀風音・装備品

 武器:クリス、ルーンクリス

 胴:黒装束

 頭:椿のかんざし

 指:抗魔の指輪


弓月火垂・装備品

 武器:ソーサリースタッフ

 胴:ルーンローブ

 頭:メイジハット

 指:毒・麻痺除けの指輪


その他アイテム

 フェンリルボウ

 クリス

 毒除けの指輪

 毒・麻痺除けの指輪

 HPポーション×2

 毒消しポーション×5

 麻痺消しポーション×2

 ハイHPポーション

 MPポーション

 帰還の宝珠

 お弁当×3

 水筒(麦茶が入っている)×3

 お菓子(ミニドーナッツ1袋、ポテトチップス1袋)

 レジャーシート


魔石

 ガーゴイルの魔石×12

 フレイムスカルの魔石×9



 これが今の俺たちが持っているリソースのすべてと言っていいだろう。

 日本円とかは役に立たないだろうし。


 消費アイテムなどは、スキルが使えるんだからおそらく効果があるだろうと思う。

 ただ「帰還の宝珠」は、一応試してみたところ、まったく効果を発揮しなかった。


 消費アイテムに関する問題点は、今後補充できる見込みが今のところ立たないということだ。


 装備品の「耐久値」は、いずれもすぐに買い替えなければならないような値じゃなかったはずだ。

 無制限に使えるわけではないにせよ、ひとまず優先的に心配する項目ではない。


 最優先で心配するべきなのは──


「この風音さんの手作り弁当は、食糧確保的な意味で生命線になる可能性があるな。大事に食べないと」


「んー、でも、あんまり長く食べないでおくと悪くなっちゃうと思うよ」


「うちもそろそろお腹減ってきたっすよ」


「……悪くなってしまってはもったいない。お昼にしましょう」


「「わーい♪」」


 危機的状況であるかもしれないにもかかわらず、俺たちはその場でレジャーシートを敷いて、のんびりと昼食をとった。


【アイテムボックス】は、保存に関しては特に超常的な効果があるわけでもなく、リュックサックなどに入れているのと同じようなものらしい。


 腐ってしまったら、せっかく風音さんが作ってくれたお弁当がもったいなさすぎるからな。背に腹は代えられない。

 それにどっちにしろお腹に入れるんだから、いつ食べても大差はないだろうし。


 ちなみにこのお弁当、ここ最近は風音さんと弓月が毎日交互に、三人分ずつ作ってきてくれていた。

 非常にありがたい。


 毎朝大変だから店売りのお弁当でいいのでは、とやんわり伝えたことはあったのだが、「飽きたらそうさせてもらうね」「今はお弁当を作るのが楽しいっす」と言われたので、それ以上は言及せずに毎日ありがたくいただいている。


 ……え、俺が作る選択肢?

 いや作れなくはないんだけど、二人が作ってくるものと比べると粗末なものになりそうだし、それこそ店売り弁当でいいというか何というか。

 ごめんなさい。風音さん、弓月。いつも感謝してます。


 なおお弁当は毎日とてもおいしいし、彩りも豊かなものだ。

 二人とも料理はかなり手慣れている様子。


 ただこの異世界に来たせいで、こんなおいしい食事にはしばらくありつけなくなるかもしれないな。


「「「ごちそうさまでした」」」


 三人で手を合わせて、昼食を終了する。

 今日もおいしかったです。ありがとう風音さん。


 さて、能力とアイテムの確認も終わって、昼食もとった。

 行動開始だ。


 ただその前に、例の限界突破イベントガイドのほかのページも、流し読みでざっと目を通しておく。

 実際にこの異世界で動いてみなければ、実感が湧かない部分が大きいだろうが──


 一点、目についた部分があった。

 巻末にある「ミッション一覧」のページだ。


───────────────────────


▼ミッション一覧

・人口3000人以上の街に到達する……獲得経験値1000

・冒険者ギルドで冒険者登録をする……獲得経験値1000

・ゴブリンを10体討伐する(0/10)……獲得経験値2000

・Eランククエストを1回クリアする(0/1)……獲得経験値2000


───────────────────────


 今のところ、記されているのはこの四つの項目だけだ。

 ミッションは随時更新されるとのことだから、今後増えるのかもしれない。


 それぞれのミッション内容を見ただけでも、いろいろと気になることはあるな。


 だが何より今は、生存が最優先項目だ。

 ミッションやレベルアップのことは、安定的な生活基盤を確保できたら、そのあと考えよう。


 俺たちは片付けを終えて出立の準備を整えると、丘の上から一度景色を見下ろし、街へと続く道を歩いていった。

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