第55話 ほかの探索者

 晴れて「ただの通過地点」となった第六層。


 俺たちは順当に、第六層を歩き回ってマップを開拓していくことにした。

 マップの未探索領域を地道に潰していく作業が、ちょっと楽しい。


 なお、下層への最短ルートをネットで調べて第七層に直行することもできなくはないのだが、それはやめておいた。


 今の俺達にとって最も的確に「稼げる」のが、おそらくこの第六層だ。


 先人が残した第七層データから推察するに、今の戦力で第七層に下りても、あまり芳しい結果にはならないように思う。


 なので第六層を順当に探索して、しっかりと実力をつけながら進みたいと思うところだ。


 そんなわけでこの日は、第六層をざくざくと開拓していった。

 戦闘も予想通りに順調で、俺たちは高額魔石と経験値をもりもり獲得していく。


 そうして夕刻まで探索を続け、そろそろ地上に帰還しようかと思っていたときのことだった。


「おーい、そこの三人! ちょっと頼みがあるんだが!」


 俺たちはダンジョン内で、二人組の探索者シーカーと遭遇し、声を掛けられた。


 男女二人組パーティで、声をかけてきたのは男のほうだ。


 ダンジョン内でほかの探索者シーカーに出会うのは、「ダンジョンの妖精」の件を除いても、これが初めてではない。

 洞窟層では見なかったが、森林層に入ってからはたびたびあったことだ。


 それでも普通は、軽く挨拶をする程度。

 こんな風に声を掛けられたのは初めてだった。


 男の年の頃は、二十代後半ほどだろうか。

 動きやすそうな衣服系の防具を身に着け、武器は格闘戦用のグローブを装備している。


 もう一人の女性も、やはり二十代後半ぐらいの歳に見える。

 こちらは鉄の鎧プレートアーマーに身を包み、戦斧を手にしていた。


 遠目に見て、女性のほうは体調が悪そうに見えた。

 青い顔をして、よろよろと歩いている。


 俺は小太刀さん、弓月と顔を見合わせる。

 二人は、俺に任せると言わんばかりに、こくんとうなずいた。


 俺は男たちのほうへと歩み寄りつつ、声をかけることにした。


「どうかしましたか?」


「すまん、毒消しアンチドーテポーションが余っていたら、一本譲ってほしいんだ。もちろん礼はする。頼む」


 なるほど。

 おそらく毒消しポーションを切らした状態で、女性のほうが毒を受けてしまったのだろう。


「小太刀さん、毒消しポーション、余ってます?」


「うん。八本残っているから、一本渡すぐらいならまったく問題ないと思います」


【アイテムボックス】を出現させて中身を確認した小太刀さんが、そう返事をしてくる。


 弓月も「渡してあげたらいいんじゃないっすか? 困ったときはお互い様っすよ」などと言って、賛成の意志を見せていた。


 二人に異論がないなら、俺も否やはない。


「分かりました。一本で足ります?」


「譲ってくれるか! マジで助かる。一本でもありがたいが、できれば二、三本もらえるともっと助かる」


 そろそろダンジョンを出る頃合いだし、俺たちの都合を考えても、毒消しポーションは五本も残っていれば十分すぎるぐらいだ。


 そう考えて、俺たちは八本あった毒消しポーションのうち三本を、男に渡してやった。


 男は礼金込みの代金として、3万円を渡してきた。

 毒消しポーションは武具店で買うと一本5000円だから、一本1万円での買い取りならおいしい取引だ。


 つらそうな顔をしていた女性探索者シーカーは、受け取った毒消しポーションを一本、ぐいっと飲み干す。

 やがて女性は顔色が良くなり、ホッと一息をついた。


「ありがとう、あんたたち。恩に着るよ。──あまり見覚えのない顔だけど、三人とも新人ルーキーかい?」


「うっす。うちは探索者シーカーを始めて、まだ一ヶ月もたってないっすね。六槍先輩と風音さんはうちよりちょっと早いけど、似たようなもんっす。お姉さんたちは、ベテランの探索者シーカーっすか?」


 弓月がそう聞き返すと、女性は苦笑する。


「ああ、十年近くも探索者シーカーをやってるんだから、ベテランってことになるだろうね。それがこのザマじゃ、まるで格好つかないけど」


「いや、ホント悪い! 【アイテムボックス】にまだ残ってたはずだったんだよ。思い違いだったみたいだ」


 男が女性を拝んで頭を下げ、女性は「ホント頼むよ。まあ管理をあんた任せにしてたあたしも悪いから、いいけどさ」などと言っていた。


 一方で、話を横で聞いていた小太刀さんは、女性探索者シーカーに向かって感嘆の声を漏らす。


「はぁーっ。十年もやってらっしゃるんですか。じゃあやっぱり、レベルはとっくに25ですか?」


「そりゃあね。レベル25のカンストまでは、最初の半年もかからなかったよ。兼業で探索者シーカーをやってるやつだったら、もっとかかるだろうけどさ」


「そっかぁ……。そうですよね。私たちは一ヶ月ぐらいで今のレベルだし、それはそうか……」


 25レベル。

 それが一般探索者シーカーのレベルの上限値だ。


 26レベルを上回る探索者シーカーもいるが、それは探索者シーカー全体のうちのごく一部。


 ちなみに、そのごく一部とは何者かといえば、例えば武具店のオヤジさんがそれだ。


【限界突破】探索者シーカー

 それ自体がスペシャルな探索者シーカーたちの中でも、特にスペシャルな存在である。


 その境地に至ることができた探索者シーカーは、国からも一目置かれる存在になると聞く。


 とはいえ、【限界突破】探索者シーカーには、なりたくてなれるものじゃない。


【限界突破】探索者シーカーになるためには、【限界突破イベント】と呼ばれるダンジョン内の仕掛けに出会わなければならないからだ。


 今日こんにちでは、一般探索者シーカーが【限界突破イベント】に遭遇するのは、宝くじで億を当てるのと同じぐらい奇跡的なことだと言われている。


 俺みたいな平凡な探索者シーカーは、そういう夢みたいなことは期待せずに、もっと堅実に生きるべきだろう。


「じゃ、またな。助かったよ」


 男女二人組のベテラン探索者シーカーは、手を振って去っていった。

 俺たちもまた、探索を再開する。


 その後、つつがなくダンジョン探索を終えて帰還した俺たち。


 今日の収入は、魔石換金額が全部で16万円ほど。

 これに宝箱から出てきたアイテムによる収入や、消耗した毒消しポーションの経費、あの二人組から受け取った3万円なども考慮すると、トータルでは18万円ほどの探索収入となった。


 この収入を使って、武具店で買い物だ。


 今日は5万円の「毒除けの指輪」を二つ購入。

 俺と小太刀さんがそれぞれ装備した。


 このアイテムを装備していると、バッドステータスの「毒」を受けたときに50%の確率で無効化してくれるのだという。


 なお「麻痺除けの指輪」というアイテムも売られているが、「装備部位:指」のアイテムは二つ同時に効果を発揮できない。

 麻痺を魔法で治癒できるうちのパーティは、毒防御を優先した。


 またこの日の探索で、俺、小太刀さん、弓月の三人ともが、1レベルずつのレベルアップを果たしていた。



六槍大地

レベル:15(+1)

経験値:8351/10402

HP :76/76

MP :85/85(+5)

筋力 :17(+1)

耐久力:19

敏捷力:14(+1)

魔力 :17(+1)

●スキル

【アースヒール】

【マッピング】

【HPアップ(耐久力×4)】

【MPアップ(魔力×5)】

【槍攻撃力アップ(+12)】

【ロックバレット】

【プロテクション】

【ガイアヒール】

【宝箱ドロップ率2倍】(new!)

残りスキルポイント:0



小太刀風音

レベル:16(+1)

経験値:11200/13527

HP :60/60(+4)

MP :45/45

筋力 :15(+1)

耐久力:15(+1)

敏捷力:25(+1)

魔力 :15

スキル

【短剣攻撃力アップ(+10)】

【マッピング】

【二刀流】

【気配察知】

【トラップ探知】

【トラップ解除】

【ウィンドスラッシュ】

【アイテムボックス】

【HPアップ(耐久力×4)】

【宝箱ドロップ率2倍】

【クイックネス】

【ウィンドストーム】(new!)

残りスキルポイント:0



弓月火垂

レベル:14(+1)

経験値:5922/7902

HP :56/56(+4)

MP :145/145(+5)

筋力 :12(+1)

耐久力:14(+1)

敏捷力:16

魔力 :29(+1)

●スキル

【ファイアボルト】

【MPアップ(魔力×5)】

【HPアップ(耐久力×4)】

【魔力アップ(+6)】

【バーンブレイズ】

【モンスター鑑定】

【ファイアウェポン】

【宝箱ドロップ率2倍】(new!)

残りスキルポイント:0



 新人探索者シーカーの俺たちも、順調に強くなっている。


 でもこうしたレベルアップによる強化も、25レベルに至るまでの期間限定だと思うと、少し寂しくはある。


 そんな風に思っていた俺だったのだが──


 どうやら運命は、俺たちをもっと大きな奔流へと投げ込もうとしているらしい。


 そのことを俺は、しばらくの後に知ることとなる。

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