第54話 ジャイアントバイパー
四体のジャイアントバイパーは、地面を不規則にうねりながら高速で接近してくる。
「弓月!」
「任せるっす! 終末の炎よ、すべてを焼き尽くせ──【バーンブレイズ】!」
対するこちらの戦術は、いつも通りだ。
ワンパターンすぎて芸がない気もするが、別に芸事をやっているわけでもないからな。
弓月が突き出したルーンスタッフの先、その直前の空間にオレンジ色の魔力球が出現して、高速で発射される。
それは近付いてくる四体のジャイアントバイパーをすべて巻き込む位置に着弾して、広範囲に激しい炎を噴き上がらせた。
だが次の瞬間、炎に巻かれたはずの四体ともが、炎の海の中から飛び出してくる。
「わーっ! やっぱり一体も倒せなかったっす! 大魔導士の敗北っすよ!」
弓月が慌てた様子で叫ぶ。
「やっぱり」と付けているとおり、事前に読めていた話ではあるわけで、ただ騒いでいるだけにも思えるが。
ジャイアントバイパーは、キラーワスプよりも魔法防御力やHPが幾分か高い。
となれば【バーンブレイズ】一発では落としきれない可能性はあらかじめ見えていたわけで、やはりそうなったかという確認程度の話だ。
そしてもう一つ見えているのが、あの四体はすでに、ほぼ瀕死の状態であろうということ。
ならば追加の攻撃で潰せばいい話だ。
「えぇい、勝手に負けるな! 【ロックバレット】!」
「私たちがいます! 【ウィンドスラッシュ】!」
「お兄ちゃん! お姉ちゃん!」
俺と小太刀さんの攻撃魔法が、それぞれ一体ずつのジャイアントバイパーに命中。
案の定、そいつらを撃破することに成功した。
そして残り二体となれば、あとは俺と小太刀さんの物理攻撃で片が付く。
ジャイアントバイパーたちが近接戦闘距離まで来たところで、先制攻撃を仕掛けてそいつらを撃破した。
あっけない完全勝利だ。
なんだ、行けそうな気はしていたけど、やっぱり全然行けるじゃん。
「「「イェーイ!」」」
パンパンパンとハイタッチで手を合わせる俺、小太刀さん、弓月の三人。
「先輩、やったっすよ!」
「おっと……! おう、やったな!」
弓月が飛びついてきたので、受け止めてくるりと回る。
弟分を手放すと、今度はこの後輩、小太刀さんに飛びついた。
「わっ……!?」
「えへへーっ。風音さん、うちら最強っすね!」
「う、うん、そうだね。いい子いい子」
抱きついた弓月を、小太刀さんはなでこなでこする。
弓月は「ふへへっ」と声を漏らして、嬉しそうにしていた。
くそっ、相変わらず羨ましい動きをするな弓月のやつ。
俺も勢いで小太刀さんに抱き着いたらワンチャン……いや、絶対変な空気になるな、やめよう。
弓月のあのキャラずるいわ。
ともあれ、これで第六層の戦闘風景はだいたい見えた気がする。
現戦力で第六層は攻略可能だろうという目算も立った。
モンスターの出現数が多いときなどに多少の損害は出るかもしれないが、それでも何とでもなる範囲だと思う。
この流れなら、レベル上げがてら三日ぐらいかけて第六層のマップ開拓をしつつ、そのまま第七層へ直行でよさそうだな。
そして第七層といえば、例の「ダンジョンの妖精」が言った「お礼」の件が待っている。
何が起こるのか分からないから、少し怖くもある。
君子危うきに近寄らずなら、スルーするべき案件なのかもしれない。
でも俺は、好奇心を抑えられずにいた。
武具店のオヤジさんが言っていた「とんでもない幸運」とはどんなものなのか。
それが我が身に降り注ぐ未来の可能性を棒に振ってまで、無難なばかりの君子になろうという気は起きなかった。
もちろん俺だけで決めることではなく、小太刀さんや弓月の意見も聞く必要があるのだが。
そう思って、二人のほうへと目を向けると──
「けど惜しむらくは、風音さんが鎧を着てることっすね。せっかく抱き着いても、風音さんの柔肌をあまり堪能できないのは残念っす」
「火垂ちゃん、同性でもセクハラはあるって知ってる?」
「嫌だったらやめるっすよ?」
「……まあ、嫌じゃないけど」
「ふふん、嫌じゃないものはセクハラって言わないっすよ〜。うりうり〜、こことかどうっすか〜?」
「やっ、ちょっ……!? あははははっ! くすぐったいっ……!」
何やらイチャコラとスキンシップを繰り広げている女子二名(うち一名には「生物学的には」と注釈を付けたい)の姿が視界に入ってきた。
……また今度、話せばいいか。
俺はひとまず、弓月の首根っこに手を伸ばして引っ掴み、後輩ワンコを小太刀さんから引き剥がしたのだった。
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