第53話 第六層
石造りの螺旋階段をぐるりぐるりと下りて、俺たちは第六層の大地にたどり着いた。
風景は第五層と代わり映えがしない。
鬱蒼と茂る森林地帯に、不自然なぐらいはっきりと「道」が形作られている。
ちなみに森の中の道のない場所に踏み入ることもできなくはないのだが、そこは「マップ外」であり、【マッピング】スキルでも現在位置が表示されなくなる。
だだっ広い「ただの樹海」に深入りするのは、自殺行為にもなりかねない。
わざわざそんな危険を冒す必要もないので、俺たちはいつも通り、普通に「道」を進んでいくことにする。
「いよいよ第六層ですね。この階層の新出モンスターは『ジャイアントバイパー』だという話ですけど」
「でっかい毒蛇っすね。キラーワスプみたいにうじゃうじゃ出てくるっす」
「数が多いのは弓月頼みだな。頼んだぞ、大魔導士」
俺がそう言って弓月の頭に手を置いてなでると、後輩は「うきゅっ」と鳴いて嬉しそうにした。
「えへへっ、任せるっすよ兄貴♪ その代わり兄貴と風音さんには、うちのことをしっかり守ってほしいっす」
「うん。火垂ちゃんのことは、お兄ちゃんとお姉ちゃんが守ってあげます。仲良し三兄弟は無敵です♪」
「へっ。兄弟だそうっすよ、お兄ちゃん♪」
「そうだな。なんかイラっとしたからこうしてやる」
「わっ、そんなに髪をかき混ぜちゃダメっす! ギャーッ!」
弓月の頭に手を置いた俺は、その髪をわっしゃわっしゃとかき混ぜる。
弟分の艷やかなショートヘアーはぼさぼさになった。
しかし小太刀さん、決して脈なしではないと思うんだけど、微妙にずらしてくるんだよな。
俺が踏み込もうとしていないのも原因ではあるのだが、さておき。
第六層攻略は、ネット上のデータを見た感じでは、第五層のそれとさほど大きく変わらない印象だ。
キラーワスプが最大七体出てきたり、デススパイダーが最大三体出てきたりと、第五層と比べて一度に遭遇するモンスターの数が増える。
だがこれは、おそらくどうにかなるんじゃないかと思っている。
うちのパーティの火力は、今や第五層ではオーバースペックなぐらいなので、少しぐらい数が増えてもなんとか対応できるはず。
それでも多少の損害は出るかもしれないが、許容範囲に収まるだろうと思う。
読み切れないのは、第六層の新出モンスターである「ジャイアントバイパー」だ。
データを見た感じでは、対応できないほどの強さではないと思うのだが、まだ実際に戦ってみた肌感覚がないから不安は残るんだよな。
などと思っていると──俺たちは、第六層で初めてモンスターの群れに遭遇した。
噂をすれば影、ということもなく、普通にデススパイダーが二体だった。
これは第五層でも遭遇しうるモンスター編成であり、さほどの難敵ではない。
弓月の【バーンブレイズ】で二体まとめて焼いた上で、小太刀さんの【ウィンドスラッシュ】、それに俺と小太刀さんの物理攻撃とで追加攻撃を加えて二体を撃破、あっさりと完封勝利した。
次いで遭遇したのは、キラーワスプが六体だった。
これも【バーンブレイズ】【ウィンドスラッシュ】【ロックバレット】に物理攻撃を加えることで、完封勝利に成功。
そうしてノーダメージで第六層を突き進んでいって、三戦目──
「六槍さん、火垂ちゃん。本命がようやくのご登場みたいですよ」
小太刀さんがそう言った直後のことだ。
行く手の先、距離は数十歩ほどの地点。
左右の森の木々の間から、複数の「大蛇」がずるりと姿を現した。
それぞれが体長五メートルほどもあるだろうか。
胴回りの太さは、人の胴ほどではないが、太腿よりは遥かにぶっとい。
それらがうねり進む姿は不気味で、動きは思いのほか素早い。
頭部は大型のコブラのよう。
常人の腕ぐらいはゆうに噛みちぎりそうな鋭い牙からは、紫色のおぞましい液体がどろりと垂れ落ちていた。
数は、四体。
そいつらは急速度で地面を這って、俺たちに向かって近付いてきた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます