第52話 成長の果実
五体のキラーワスプが、ブーンという羽音を鳴らしながら高速で飛来する。
五体それぞれの距離は、わりと大きく離れている。
範囲魔法に全部を巻き込めないので、少し厄介なパターンだ。
だが弓月ももう、このパターンは慣れっこである。
「全部を巻き込めないなら、できるだけ多くっす! 【バーンブレイズ】!」
先陣を切って飛んできた三体を包み込み、弓月が放った魔法の業火が炸裂した。
俺と小太刀さんは、魔法発動待機だ。
一瞬の後に炎がやむのを待ち──
「っし! 全部仕留めたっす!」
弓月の快哉の声。
【バーンブレイズ】の炎がやんだ後、三体のキラーワスプはすべて焼き尽くされていた。
この一週間の強化期間で、最も目覚ましい成長を遂げたのが弓月だ。
レベルが9から13へと、4レベルもアップ。
獲得した4点のスキルポイントのうち3点を【魔力アップ】のスキルに集中的につぎ込んだ。
それに加えて装備も、魔法威力強化能力があるもので固めている。
結果として、弓月の【バーンブレイズ】の威力は、今や強敵キラーワスプを一撃で撃墜できるほどにまで爆上がりしていた。
一週間前には、【バーンブレイズ】よりもはるかに威力の大きい【ファイアボルト】ですら、一撃では落とせなかったのに、だ。
ただそれも確実ではなく、【バーンブレイズ】で三体を巻き込んだら、場合によっては一体か二体ほど運悪く撃ち漏らすことはありうるのが現状だ。
ゆえに俺と小太刀さんは、まず弓月に先に魔法を撃たせて、その結果を見てから動くようにしていた。
というわけで、弓月の【バーンブレイズ】が三体とも仕留め切ったことを確認した俺は、【ロックバレット】の魔法発動をキャンセル。
ヒーラーとしての役割も持つ俺は、無用にMPを消費するべきじゃない。
一方で小太刀さんは、予定通りに魔法を発動させる。
「いけっ、【ウィンドスラッシュ】!」
小太刀さんが突き出した左手の短剣の先から、風の刃が放たれる。
目で追えないほどの速度で飛んだ風刃は、残る二体のキラーワスプのうち一体を大きく切り裂いた。
それでキラーワスプが落ちることはないのだが、問題ない。
すべて計画通りだ。
俺は小太刀さんの【ウィンドスラッシュ】がダメージを与えたほうのキラーワスプに向かって駆け出す。
小太刀さん自身は、もう一体のほうだ。
「はあっ!」
「やぁああああっ!」
俺の
一週間前は命中が危うかった俺の槍の攻撃も、今では危なげなくヒットさせることができる。
これは主に「疾風のブーツ」による敏捷力アップ効果のおかげだ。
「疾風のブーツ」の「敏捷力+5」という効果は、走る速度だけではなく、身のこなし全般にも及ぶ。
俺のちょっとした弱点だった敏捷力は、これによってひとまずの及第点にまで補強されたように思う。
俺と小太刀さんの攻撃によって、二体のキラーワスプはいずれも消滅し、魔石へと変わった。
戦闘終了だ。
あっという間の完封勝利。
MPの消費もきわめて少なく、考えうる限りの理想的な勝ち方だった。
「「「イェーイ!」」」
俺は小太刀さん、弓月とともに、ハイタッチで完全勝利を喜び合う。
結局、この一週間で俺たちが何を目標にしたかというと、武具屋のオヤジさんが言っていたモンスター攻略の、基本戦術その一だった。
すなわち「攻撃は最大の防御。攻撃を受ける前にモンスターを殲滅しろ」である。
このために、装備・スキルともに攻撃力の増強に特化した。
「疾風のブーツ」も、その一環だ。
それでも足りなければ防御力アップにも手を出していこうと思っていたのだが、そこまでせずとも第五層は楽勝ラインまで到達してしまった。
というわけで、俺たちは満を持して、第六層へと向かうことにした。
先週の強化週間中に、もののついでで下層への階段は見つけてあるので、最短ルートを使って直行するだけだ。
第六層では、モンスターの出現数が第五層よりも増えるほか、新出のモンスターにも遭遇するらしい。
言い方を変えれば、そうしたモンスターの群れに対処できる戦力があれば、第六層は第五層よりも「稼げる」階層だということだ。
俺たちは、森の中に現れた石造りの下り階段を、繁茂する苔や植物のツタに足を取られないよう気をつけながら下っていった。
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