第49話 お礼

 自分で「大丈夫か」と聞いておいて何だが、少女の姿を見るに、あちこち傷だらけの血まみれでとても大丈夫そうには見えない。


 治癒魔法をかけてやりたいが、貴重なリソースなんだよな。

 俺はまず、本人に手持ちがないか聞いてみることにした。


「治癒魔法は使えるか? それかHPポーションの持ち合わせは?」


「ない。でも気にしなくていい。ボクは、大丈夫だから」


 少女は淡々と答える。

 どうでもいいけど、ボクっ娘なのか。


 あと今更だけど、流暢に日本語を喋っている。

 西洋人ぽく見えるが、在住はずっと日本なのかもしれない。


「その状態で、気にしなくていいって言われてもな。まあHPが残ってさえいれば、死にはしないんだろうが」


 探索者シーカーは怪我をしても、出血はすぐに止まる。

 それによって余分なHP減少が起こることは通常ないから、大丈夫というのは間違いではないのだろうが。


 一方で少女は、ゆっくりと首を横に振る。


「本当に、大丈夫だから。それよりも、ボクを助けてくれたことに対して、お礼をしないとだね」


 そう言って少女は、服のポケットに手を突っ込んで、一つのペンダントのようなものを取り出した。

 少女はそれを、俺に渡してくる。


「第七層の、マップの一番北東部。これを地面に置いて、しばらく待ってみて。それじゃあ、ボクはこれで」


「えっ……? いや、おい──」


 用事は終わったとばかりに、話を切り上げようとする少女。


 何だこのどこまでもマイペースな娘は──と思っていたのも束の間のこと。

 次の瞬間に、驚くべきことが起こった。


「は……? 消え、た……?」


 直前まで俺の目の前にいた少女は、次の瞬間、黒い靄になってその場からかき消えてしまった。

 まるでモンスターを倒したときのように、だ。


 小太刀さんと弓月のほうを見ても、やはり目を丸くしていた。


「えっ……と、『帰還の宝珠』でしょうか……?」


 小太刀さんが、呆然としながらそう口にする。


 探索者用のアイテムの一つに「帰還の宝珠」というものがある。


 これは一部の例外的な状況や場所を除いて、ダンジョン内のどこからでも一瞬でダンジョン外に瞬間移動できるという、超便利な高級消費アイテムだ。


 だが確か、効果を発動するには宝珠を手に持って念じる必要があったはず。

 そんなものを手にしていた様子はなかったと思うのだが。


 俺がそれを口にすると、今度は弓月がこんなことを言い出した。


「じゃあ今の女の子って、お化けか何かっすか?」


 お化け──そう言われて俺は、ひょっとするとそういう類かもしれないなと思ってしまった。


 ダンジョンがあって、探索者シーカーがいるんだから、お化けぐらいいたっておかしくは……いかん、頭痛くなってきた。


「でもそのお化け、贈り物を置いていったぞ」


 俺は少女から渡されたペンダントを、二人の仲間に見せる。


 特に何の変哲もない、どこにでもありそうなデザインのペンダントだ。


 俺たちは三人して首をひねったが、答えなんて出るわけがなかった。


 結果、ひとまず今の出来事はなかったことにして、予定通りにダンジョンを出ようという話になった。


 その後はモンスターに遭遇することもなく、第五層の入り口まで到着。


 中継地点まで行って転移魔法陣に乗り、ダンジョンの外へと移動した。


 ちなみにだが、少女と遭遇したときのモンスター戦で俺はレベルアップし、12レベルになっていた。


 スキルは一も二もなく【MPアップ(魔力×5)】を取得。


 それにより最大MPに引っ張られて現在MPもいくらかアップしたが、もうみんなダンジョンを出てお昼を食べるテンションになっていたので、予定通りにダンジョンからの一時撤退を行ったのだった。



六槍大地

レベル:12(+1)

経験値:3061/4302

HP :68/68(+4)

MP :29/75(+19)

筋力 :14

耐久力:17(+1)

敏捷力:12

魔力 :15(+1)

●スキル

【アースヒール】

【マッピング】

【HPアップ(耐久力×4)】

【MPアップ(魔力×5)】(Rank up!)

【槍攻撃力アップ(+8)】

【ロックバレット】

【プロテクション】

【ガイアヒール】(new!)

残りスキルポイント:0

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