第48話 謎の少女

 第五層の探索を続ける俺たちは、その後もたびたびモンスターに遭遇した。


 デススパイダー二体との戦闘の次に遭遇したのは、デススパイダー一体だった。


 これは特に問題なく撃破。

 攻撃魔法一斉射に加え、小太刀さんの短剣二刀流による攻撃が叩き込まれると、さすがにあっさりと撃墜された。


 次の遭遇は、キラーワスプ四体編成だった。


 三体編成よりは手ごわく、五体編成を相手にするよりは楽という塩梅。

 結果的には、俺が一撃だけ尾針の被弾を受けつつの勝利となった。


 この戦闘で、弓月がレベルアップ。

 スキルは【魔力アップ(+3)】を取得して、攻撃魔法の威力をさらに高めた。



弓月火垂

レベル:9(+1)

経験値:862/1315

HP :44/44(+4)

MP :50/84(+8)

筋力 :9

耐久力:11(+1)

敏捷力:13(+1)

魔力 :21(+2)

●スキル

【ファイアボルト】

【MPアップ(魔力×4)】

【HPアップ(耐久力×4)】

【魔力アップ(+3)】(Rank up!)

【バーンブレイズ】

【モンスター鑑定】

【ファイアウェポン】

残りスキルポイント:0



 その一方で、俺は自分の治癒のために【ガイアヒール】を使ったことで、本格的にMP枯渇が見えてきた。


 俺のMP切れは、パーティの回復リソースが切れることを意味する。


 HP回復や麻痺回復の保険として「HPポーション」や「麻痺消しアンチパラライズポーション」も持ってきてはいるが、消費アイテムを多用すると経費が嵩むので、緊急時以外の使用はなるべく避けたいところだ。


 そんなわけで、まだ今日の探索を始めて三時間ほどだが、これ以上の第五層探索はやめたほうがいいという結論に至った。


 俺たちはダンジョンから一時撤退をするべく、第五層入り口の階段へと向かう。


 もともと階段近辺でうろついていたこともあり、この帰路でのモンスターとの遭遇は、一度あるかないか程度だろうと踏んでいた。


 だがここで俺たちは、予想外の出来事に遭遇することとなった。


「あれは……!?」


「外人の女の子っすか? ていうか、ピンチみたいっすよ!」


 小太刀さんと弓月が、前方に見えてきた光景に驚きの声をあげる。


 帰路の途中で俺たちが目の当たりにしたのは、モンスターの群れと、一人の小柄な少女とが交戦している姿だった。


 ダンジョン内にいるのだから、ソロの探索者シーカーだと思うが。


 剣を片手に、木の幹を背にした少女は、体じゅうにいくつもの傷を受けて血を流している。


 それを取り囲むようにして、キラーワスプが二体と、デススパイダーが一体。

 少女は明らかに窮地に見えた。


 だがシチュエーションもさることながら、少女の姿もまた奇妙だった。


 ロングウェーブの銀髪と、紫色の瞳。

 肌も色白であり、日本人には見えない。


 しかもその少女の年の頃が、高めに見積もっても中学生、低めに見積もれば小学生にも見える幼さだった。

 かなり小柄な弓月と比べても、さらに一回りは小さい。


 あんな歳の探索者シーカーあり得るのか? などと思うが、そこを真っ先に気にしていられる状況でもない。


 小太刀さんと弓月が、俺のほうを見てくる。

 二人の目は俺に、どうしようかと問いかけていた。


 一瞬だけ迷うが、すぐに決断する。

 俺だけで決めるようなものでもないが、異論が出たらそのときだ。


「助けます! 弓月は魔法の射程まで近付いたら、彼女を巻き込まないように魔法を撃ってくれ! 俺と小太刀さんは接近戦を仕掛けて、モンスターの注意をこっちに引き付けます!」


「はい!」

「了解っす!」


 小気味の良い二人の返事。


 俺、小太刀さん、弓月が、窮地の少女に向かって駆け出していく。


 俺は走りながら、少女に向かって声を張り上げた。


「そこのキミ、助けるぞ! いいな!」


 あの子が同業者で、獲物を横取りされたとトラブルになっても困る。

 どう見てもピンチだが、念のため声をかけた。


 すると返ってきたのは、何とも間延びした、緊張感のない声だった。


「おー、助かるー」


 俺は思わずズッコケそうになった。

 何だ、ピンチじゃないのか……?


 いや、緊張感がなさそうに聞こえるだけかもしれない。

 少なくとも「助かる」と言っているのだから、助けて悪いことはないだろう。


 少女はその小さな体でモンスターたちの攻撃を巧みに回避していたが、それほど余裕はなさそうだ。


 現にまた一撃、キラーワスプの尾針攻撃が少女の太ももに突き刺さった。


 そのキラーワスプが尾針を引き抜いて少女から距離を取ると、少女はがくりと地面に膝をつく。


「うーん、まいった……。ソタイを弱くし過ぎた。だいぶ痛い」


 相変わらず緊張感のない声と言葉。

 ソタイって何だ。探索者シーカー用語でも聞いたことないぞ。


 頭の中にたくさんの疑問符は浮かぶが、ひとまずモンスターを倒すのが先決だ。


 俺と小太刀さんが現場に到着するよりわずかに早く、まずは弓月の魔法が発動する。


「女の子を焼かないように──【バーンブレイズ】!」


 二体のキラーワスプが、地表からせり上がる広範囲の炎に巻かれた。


 位置的な問題で、デススパイダーは巻き込めなかった──というか、巻き込もうとすると少女も一緒に焼いてしまうので避けたようだ。


 炎がやみ、なお健在の二体のキラーワスプが飛び出してくる。


「やぁああああっ!」

「はぁっ!」


 小太刀さんと俺が、それぞれ別のキラーワスプに武器攻撃を仕掛け、二体を消滅させた。


 厳密に言うと、敏捷力の問題で小太刀さんのほうが数歩早く現着し、俺は武器のリーチの助けもあってどうにか一拍遅れ程度で食らいつけた感じだったのだが。


「あとは──!」


 小太刀さんがすぐに動きを切り替え、残ったデススパイダーに向かって疾風のように駆けていく。


 速い、速いよ小太刀さん。

 めまぐるしいよ。


 でもこうなれば、あとはデススパイダー一体を片付けるだけだ。


 新たな標的の出現を見たデススパイダーが、小太刀さんに向かって噛みつき攻撃を仕掛けたが、それは小太刀さんがからくも回避。


 その後、小太刀さんと俺の物理攻撃、それに弓月の【ファイアボルト】も重なって、デススパイダーは十秒と待たずに撃墜された。


 ほかにモンスターの姿は見当たらない。

 戦闘終了だ。


 俺はホッと息をつき、それから少女のほうへと目を向ける。


「大丈夫か?」


「うん。ありがとう、優しい探索者シーカーの人たち」


 西洋人風の小さな少女は、依然としてとっぽい様子を見せながらも、俺たちに向かってほのかに微笑みかけてきた。

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