第46話 ガイアヒール

 俺が【ガイアヒール】の魔法を使うと、小太刀さんの脇腹の怪我がみるみるうちに癒えていく。


 傷が完全にふさがったところで、小太刀さんは手のグーパーを再び行った。

 今度は震えがなく、本来どおりの動きだ。


「本当に麻痺も治った。すごいですね……」


 わずかに苦しげな表情を浮かべていた小太刀さんが、元気を取り戻し、感嘆の言葉を漏らす。

 俺はそれを見て、ホッと安堵の息を吐いた。


【ガイアヒール】の魔法には、【アースヒール】以上のHP回復効果と同時に、バッドステータスの「麻痺」を治癒する効果がある。


 MP消費が重く、HP回復と麻痺回復が抱き合わせなあたりに良し悪しはあるが、それでもキラーワスプが頻出する森林層では大いに役に立ってくれるはずだ。


 ちなみに、これがあっても麻痺消しアンチパラライズポーションを購入してきた理由は、万一、俺が完全に麻痺してしまったときに対処ができなくなってしまうからだ。

 俺がMP切れしたときのための保険にもなるしな。


 俺はさらに、自分にも【ガイアヒール】を使って、負傷と麻痺を癒していく。

 一度の【ガイアヒール】によって、俺のダメージと麻痺はすべて回復した。


 そんな俺の様子を見て、小太刀さんが少し複雑そうな表情を見せる。


「でも六槍さん、自分のほうがひどい怪我をしていたのに、私から先に治すんですね」


「えっ……? あー……まあ、そうですね。自分の怪我の具合は自分で分かりますけど、人のは心配になるので、かな?」


「そこは先輩、馬鹿正直に本音を言わないで、『レディファースト』って言っとけばポイント稼げたっすよ」


 にひひっと笑ってからかってくる弓月。


 俺は憮然とするしかない。

 ていうか、俺がそういう器用な人間じゃないことはよく知ってるだろお前。


 だがそれには、小太刀さんが異論を唱えた。


「んー、それは違うんじゃないかなぁ火垂ちゃん。少なくとも私は、自分のことよりも人のことを心配できる、優しい人なんだなって思ったよ」


「ありゃっ?」


「でも自分自身のこともちゃんと心配してくれないと、こっちが心配になっちゃいますけどね。あまり無理はしないでくださいね、六槍さん」


「あ、はい」


 天使の笑顔で微笑みかけてくる小太刀さんに、俺はハートを撃ち抜かれた。

 結婚してください。


 一方で弓月は、「ちぇーっ」と言って唇を尖らせていた。

 やった、弓月に勝った気がする。

 何がと聞かれると困るが。


 ちなみに今の戦闘で、【ガイアヒール】で治癒する前の俺のHPは「38/64」まで減少していた。


 二発ダメージをもらって、HPおよそ四割減。

 五発もらったら高確率でアウト、四発も危険域と思っておいた方がいいな。


 一方で小太刀さんは、回避能力が俺よりもはるかに高いが、純粋な打たれ強さでは俺に劣る。

 弓月に至っては、それよりもかなり下だ。


 そして今の戦闘で俺が消費したMPは、【ガイアヒール】による治癒も含め、なんと20点だ。


【ロックバレット】は消費MP2とコスパは悪くないのだが、何しろ消費MP8の【ガイアヒール】が重い。


 先の戦闘とも合わせ、俺のMPは「32/56」にまで減少していた。


 さすがは森林層のモンスター。

 数が多くなると一気に厄介さが増すな。


 これは【MPアップ(魔力×5)】の取得が急務だな……。


 レベルよ早く上がれ、と思うが。

 今ぐらいのレベルになってくると、さすがに一回や二回の戦闘でほいほいレベルアップしてくれたりはしない。


 キラーワスプの経験値は40ポイントもあって、洞窟層では強敵の部類に入るホブゴブリンの14ポイントやゴブリンシャーマンの24ポイントなどと比べてもはるかに多いが、それでもだ。


 まあ焦ってもしょうがない。

 地道に一歩ずつ、着実に進んでいこう。

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